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できる? マイナンバーカードで年末調整の高いハードル

知っ得・お金のトリセツ(68)

これは旬の話題「年末調整」に、これまた旬の「マイナンバーカード」を用いて最先端方式でトライしようとしたIT苦手記者の敗戦記である。

紙とデータが併存する今年の年末調整

最初にお断りすると、年末調整は勤め先の指定する方法で行う。主流はまだ紙の申告書の提出だ。そう「なんだか分からないけど、暮れが近づいたら名前を書いてハンコを押して金融機関から送られた圧着はがきを添付して出す」、あの申告書だ。今年は3枚(内容は税制改正に応じ度々変わる)――扶養の状況を確認するものと、支払っている保険料の状況を申告するものと、その他の控除の状況を確認するものだ。そしてハンコ欄はなくなった。

それら申告書を基に、勤め先は勘案すべきだった控除(暮らしの経費枠)を反映して所得税を計算し直し、既に先払い済みの額との差額を12月分給与で調整してくれる。現状では会社が日ごろ使い慣れている給与計算ソフトベースの年末調整ソフトを利用し、一部電子申告を取り入れつつも、紙提出も併存させている企業が多い。会社員個人が一人先走って「マイナンバーカード使って提出します」と言っても迷惑、かつ不可能なのでやめよう。その意味で大半の人は「まだできない」。それで問題ない。

たった4ステップ、のはず

記者の場合、担当している動画(「マネーの世界 なるほどポンッ!」)の題材として、年末調整のイロハを確認しつつ「最先端の会社はここまで進んでいる」と伝える意味で疑似的にトライしようと思い立った……のが運の尽き。

結果から言うと玉砕した。各関係先コールセンターへの何本もの問い合わせ電話と、それに伴う膨大なたらい回し待ち時間と、スマホを片手に老眼を酷使した何時間ものトライ・アンド・エラーの末、東の空が明るくなる頃、放心してつぶやいた。「こ、これはムリだ」

やるべきプロセス自体はクリアにみえる。国税庁の「マイナポータルと連携した年末調整手続き」によると、取るべきステップはたったの4つだ(上図参照)。聞き慣れない専門用語が心理的ハードルを上げはするが、要は「マイナポータル」とは政府が運営するマイナンバーを使ったオンラインサービス提供広場。まずはそこに参加登録した上で国税庁のe-Tax(国税電子申告・納税システム)と連携する。さらにデータを民間から取ってきてくれるオンライン上の郵便係「民間送達サービス」とつながったら準備完了。最後に控除証明書など実際に欲しいデータを保険会社に頼んで受け取ったら、ワンクリックで自動的にマイナポータルにデータが流れ込む。

日本で最先端の年調企業(たぶん)、民間送達サービスを手掛ける野村総合研究所で実際に社員の人の年調デモを見せてもらった時は、流れ込んでいた。でも私のマイナポータルにデータが流れ込むことは、ついぞなかった。

地図なき暗闇に潜む無数の落とし穴

原因はマイナンバーを用いる作業の全貌を描いた大きな地図が見えないこと。そして、にもかかわらず、カードを使った作業にまつわる細かい落とし穴は満載なことだ。かくして陥るのが「どこがわからないのかさえ、わからない」状態。地図なき暗闇を行軍中に足元に仕込まれた落とし穴に、いちいち落ちる感じ?

細かい落とし穴の正体はわかっている。まずスマホの操作だ。一連の操作はマイナポータルAPとブラウザのアプリを行ったり来たりして行うが、その間何度もマイナカードを読み込んで利用者証明用の電子証明書の暗証番号を打ち込む作業をさせられる。今自分がデジタル空間のどこにいて、何に向かって「私ですよ」と証明しているのかわからなくなる。

そして「Safariに戻る」の恐怖が待ち受ける。自分の場合、スマホ端末はiPhoneなのでブラウザはSafari。言われるままにこの「戻る」マークを押すたび別のページに連れて行かれ「もっとつながる」作業が中断した。しかも飛び先がかつて直接開いた(と思われる)e-Taxページなのでコールセンターの人も「それは既につながってます」と言う。だが一向にうさぎの「マイナちゃん」が出てきて「つながり完了」と言ってはくれないのだった(このマイナちゃんマークが必須だ)。マイナポータルを扱う時は忘れずに開いているページを全て落とそう。

個人番号は知られてはならないが…

私の場合の最大の難関は保険会社からのデータ入手・送信だったので、IDやパスワード設定にまつわる細かいグチは尽きない。が、長くなった。より根本的で重要な「地図なき感」――マイナンバーとマイナンバーカードを扱う手続きに関する全体像の欠如、に移ろう。

19日発表の経済対策としてのマイナンバーカード利用促進策ではカードを取得して健康保険証化したり、銀行口座をひも付けたりすると最大2万円分のポイントがもらえる。具体的な手続きは年末調整と同じ、ざっくり言って自分の情報のマイナポータルへの名寄せ作業だ。この時12ケタのマイナンバーそのものは使わない。使うのはICチップ内の電子証明書とそれを活用してつくる電子的なカギだ。「だから安心」と言われると、マイナンバーについて「他人に知られてはいけない。みだりに知らせてもいけない」と教えられてきた我々は納得しがちだ。

でもカードは持ち運び奨励

でも、ちょっと待って。色々なものとつながって多機能化したマイナカードは持ち運んでバリバリ使うことが前提だ。すでに健康保険証だけでなく、入館証やポイントカードと合体させて使う例も増えている。使用場面が増えるに従って心配になるのが券面に書かれている番号そのものの存在。知らせたら法律で処罰対象にもなるような極秘情報がなぜ券面に載っているのか? なのに、それを隠すためについてくる「カバー」の頼りなさといったら……。番号以外に隠す部分が、なぜ「性別」と「臓器提供意志」なのか、もろもろ意味不明だ。

そして連携のカギを握る「民間送達サービス」についても、わざわざ「ここに民間を挟んでますよ」と強調するのがいいのか、悪いのか。利用者の操作性だけ考えれば水面下でシームレスにつながってくれた方が面倒はない。

「国民背番号制」への反発というあつものに懲りてなますを吹いている間に5年以上が過ぎ、クラウド等の技術も飛躍的に進歩した。迅速で適切なプッシュ型給付のあり方を考えた時、年収・資産の把握は欠かせない。当然銀行口座のひも付けも進むべきだ。そろそろ一度マイナンバーとカード利用について、分かりやすく整理した上で包括的に議論を深めるタイミングだ。源泉徴収・年末調整のシステムでサラリーマンだけを丸裸にするのではなく……。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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