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自分に最適化されたマネープランをつかみ取る力

マネープランをパーソナライズ(3)

今月のテーマはお金の問題を「パーソナライズ」することです。あなたのマネープランをあなたに最適化した形にパーソナライズするためには、アドバイスやツールを活用する方法が考えられます。

まずは自分で学び、自分で考えてみる

マネープランはひとりひとりの家庭環境や考え方、資産状況などによって大きく変化します。金融商品にも時代に応じて新たな対応を求められます。ついつい誰かにお任せしたくなるかもしれません。

しかし、人に任せるにあたっても基本中の基本のようなところは自分が理解しておく必要があります。金融リテラシーの基礎の部分はやはり、国民が自ら習得しておきたいところです。金融リテラシーというと何やら難しいことを学習するイメージがありますが、計算式や複雑なシミュレーションを必要とするわけではありません。

家計をしっかりやりくりすること、必要なものを適切な価格で購入すること、欲望による消費についてはセルフコントロールしつつ楽しむこと、将来を見据えて一定の金額を資産形成にも回していくこと、いろんな契約をするときは、内容を確認し理解したうえで結ぶこと――といった当たり前のことを、少しずつ具体的に理解し、深めていけばいいのです。

とはいえ、体系的にこれを学ぶ「場」が社会人には多くはないのが悩みどころです。最初は興味のあるところからでいいので、記事や書籍をたどりながら知識を獲得していきましょう。

勉強の際に工夫をするといいのは、「商品知識」よりは「判断するセンス」のようなところを意識することです。私は「お金の知識」ではなく「お金の知恵」が重要だとよくいいます。商品知識は情報が陳腐化する恐れがありますし、必要なら販売担当者に説明を求めることができます(うそをつけば法令違反になるのでここでだまされる可能性は低い)。

それよりも「この契約はおかしなところがないか」というような判断ができる力が必要です。例えば「ごく普通に考えて国の年金運用のパフォーマンスを何倍も上回るような運用実績を、リスクがなく獲得できるはずがない」というようなセンスがあれば、「安全・確実・高利回り」というようなあやしい商品に手を出さずにすみます。

そもそも、自分らしい計画を考える前提は自分が望むゴールを理解し示せることです。最終的にはアウトソースするとしても一定程度を自分の頭で考え、検証してみることは重要なことです。

無料のアドバイスは役立つのか

自分に最適化されたアドバイスを自力で見つけるのが難しい場合、第三者に求める方法も考えられます。このとき、もっとも手軽なのは金融商品の購入・契約時に相手方に相談をし、アドバイスを求める方法でしょう。

銀行で住宅ローンを組むとき、保険代理店で保険を契約するときなど、相手はその分野の専門家ですから、アドバイスを求めればいいような気がします。たいていの場合、無料で行ってくれるでしょう。しかし問題がいくつかあります。

第1の問題は「限られた範囲でのアドバイスにとどまる」という点です。例えば、住宅ローンを組むときの相談相手に、家計管理や保険相談、投資の相談まで頼むのは業務の範囲外ですし、不要なセールスを誘引する恐れもあります。

第2の問題は「相手のビジネス上の損得がアドバイスに影響する可能性を排除できない」ということです。建前上は、顧客に対する忠実義務があり、自己の利益より顧客の利益を優先することが求められていますが、現実問題として、相談相手は今まさにあなたの判断によりビジネス上の利益を得る立場にあります。

「今のあなたは、住宅ローンを無理に組まないほうがいいのでは」とアドバイスする住宅ローン担当者はいないでしょうし(数千万円の取引がフイになってしまう!)、「あなたは保険に入りすぎなので、ウチで契約する必要はありませんし、むしろ他社の商品のほうがお得ですね」とのアドバイスは望み薄でしょう。これは売り手が悪いというよりは、望むほうが無理を求めている構図です。

基本的に担当者は親切に応じてくれます(なにせこれからあなたが大きな金額の契約を結んでくれるのですから親切にしないわけがありません)。しかし、相手の意見が偏っているかどうか、つまり不要なセールスを求めてきていないかぐらいは見極める金融リテラシーが欲しいところです。

やはり、自分で基本的な金融リテラシーを持つことが大切ですし、無料のアドバイスに過度な期待はすべきではないでしょう。

有償のアドバイスをどう見極めるか

この問題は、無料であるにもかかわらず取引相手に中立的な助言を期待してしまったことにあります。自分に最適化された中立的なアドバイスを真剣に求めるのであれば、きちんと相談料を支払うことが考えられます。ところが、こちらはこちらでいくつかの問題があります。

まず「誰に相談すればいいのか見つける」必要があることです。例えば、日本ファイナンシャル・プランナーズ(FP)協会のホームページでFPを検索することはできますが、そのFPが長くつきあえる信頼できるパートナーとなるかは会って確かめるしかありません。だからといって、名が知れている有名FPに相談が集中してしまう(しかも多忙につきすぐ対応してもらえなかったりする)のも残念です。

次に、「いくらで相談してもらうのが適当か」という問題もあります。しっかり個人の資産状況やライフプランの希望を踏まえた助言を希望すれば、それなりの準備をしてもらう必要がありますが、かといって、相談料があまりにも高いと簡単に手が出なくなります。

安い相談料のFPにも問題はあります。相談料だけで商売が成り立たなくなると、金融商品の仲介手数料などでもうけるようになる恐れがあるからです。資産残高の一定率を自動的に徴収するような契約も考えられますが、普通の個人が依頼するのは難しいところです(手続き的にも、金額的にも、あるいは心理的にも)。

医療については、あなたの体調を熟知している「かかりつけ医」を地元に持つことが推奨されています。FPについても、そうした「かかりつけFP」がいることが理想的です。

誰を探すかという難しい問題が残るものの、いいパートナーがみつかれば一生の財産となるはずです。ぜひ探してみてほしいところです。

なお、無償で中立的な助言を得られるようにする取り組みも行われています。例えば日本FP協会では、生活困窮者の自立支援、修学支援や、医療介護サービス利用者向けなどの分野でFP相談を提供しているそうです。

できれば、一定の範囲で公的な支援も得つつ、お金の相談を誰でも中立的に受けられる仕組みが整うことを期待したいところです。与党の予算編成大綱には「消費者に対して中立的で信頼できる助言サービスを促進するための仕組み作り」という文言も盛り込まれており、今後の動きが注目されるところです。

投資の助言でAIを活用する日はくるか

最後にもう一つ、お金の助言を借りたい分野として、「投資」があります。

資産運用は「いつ買うか」「何を、どれくらい買うか」といった決断要素が多すぎて、適切な判断ができなかったり、またそのために投資に踏み切れなかったりする人もいます。こちらはどうでしょうか。

金融商品の種類や数量、価格などを含めた助言は投資助言業者のみが行えますが、投資助言業として登録しており、かつ一般個人向けに相談業務を行っている業者はまだ多くありません。この点はハードルの引き下げが税制改正大綱などでも指摘されており、期待されるところです。ただし報酬とサービスのバランスが課題です。

投資については別のアプローチもあります。ロボアドバイザーのように、プログラムを用いて資産配分を決定し、運用の見直し(リバランスなど)を行ってくれるような仕組みです。最大手のウェルスナビは顧客35万人、7500億円の資産を預かるほどに成長しています。

助言や自動化に頼らず、シンプルに長期・積み立て・分散投資を仕掛けていくのも有効です。しかし、そのために必要な知識とちょっとした胆力(短期的に値下がりしたときに我慢する力)などが求められます。

高度な投資関連サービスは今後も普及や発展が期待されますから、これらをうまく活用していくのもひとりひとりに適した資産運用を行っていく力となるでしょう。

ただし注意したいのは、「人工知能(AI)が勝手に売り買いを判断して、とにかくもうけてくれるのだろう」とは思わないことです。そんな「夢のAI投資」が誕生したとしても、それは高い料金プランとならざるを得ないでしょうし、むしろ詐欺師が使うネタになるように思います。

さて、次回は最終回として、ひとりひとりのお金の問題をどう考え、向き合っていくかまとめてみたいと思います。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp

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ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏が若年層に向けて、「幸せな人生」を実現するためのお金の問題について解説するコラムです。毎週月曜日に掲載します。

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