/

不透明感増す市場 割安株や実物資産投資で乗り切る

エミン・ユルマズの未来観測

ウクライナ侵攻の先にあるプーチンの野望

ロシアがウクライナに軍事侵攻しました。ロシアが債務不履行に陥るとの観測が強まる中、ハイパーインフレへの懸念も高まっています。

私にとってウクライナは、国際生物学オリンピック参加のため、16歳の時に人生で初めて訪れた外国。平たんな土地が特徴的でした。ウクライナは地政学上、春になると雨や雪解けで泥だらけとなり、道路横断が困難になります。ロシアのプーチン大統領は侵攻が難しくなるこの「ラスプティツァ(泥濘期)」の前に交戦を終わらせたいとみられる一方、仮にウクライナ政権が親ロシア派に転換しても、プーチン氏の野望はそれにとどまりません。侵攻先を隣国のモルドバやバルト3国などに広げ、旧ソ連時代の勢力圏を復活させることが狙いでしょう。

独裁国家のロシアで、プーチン氏が合理的な判断をするとは限りません。景気が悪化したり、失業者が増えたりしても、選挙で政権を失うことはないからです。

中国も同じです。長きにわたって独裁政権を率いてきたリーダーは皆、大きな政治的レガシー(遺産)を持ちたがる傾向にあります。プーチン氏は旧ソ連の勢力復活、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は台湾の併合、トルコのエルドアン大統領はオスマン帝国の復活が真の野望でしょう。

株価急落はインフレが要因

株式相場は有事そのものを警戒しているわけではありません。地政学リスクを背景に、過去米国株が急落した一例は1941年の真珠湾攻撃の時でした。90年のイラク軍によるクウェート侵攻時も急落しましたが、いずれも一時的でした。原油価格が急騰したという点では、今回の侵攻は、クウェート侵攻と状況が似ていそうです。

ロシアは原油や天然ガス、レアアースなどの天然資源の世界的な生産国です。世の中がどうにかインフレに対応しようとしている時に、ウクライナ侵攻はコモディティー(商品)価格を上昇させ、インフレを加速させています。インフレの長期化は金融引き締めを促し、テック株など割高感のあるグロース(成長)株への逆風を強めます。ウクライナと米国のテック企業に直接的なつながりはまずありません。戦争はあくまで口実にすぎず、インフレ進行の方が警戒されていることが分かるでしょう。

ナスダック100指数に対して2倍の値動きを目指す、米国のレバレッジ型投資信託「レバナス」に投資するいわゆる「レバナス民」。彼らにとってこの状況は危険信号でしょう。これまで、メイン市場ではないはずの日本人までもが米国のグロース株に投資をし続けてきました。ナスダックを買えば資産は増える、という単純明快な取引は続きません。皆が同じ投資行動をすれば、相場は一気に下落方向に振れる局面が出てくるからです。

また米国や西欧諸国の出方次第では、中国に対し「米欧はロシアの抑止力にならない」との見方を与え、同国の台湾掌握の行動を助長することにもなりかねません。中国の動きにも注意が必要です。

インフレ継続期間は不透明

インフレは当面進行するとみられる一方、超長期的に続くかどうかは、各国の中央銀行も私自身も結論が出ていません。金融緩和でバブル化した資産が崩壊し、世の中が一気に低成長・低インフレに逆戻りする可能性もあるためです。

インフレ要因の一つは米国と中国のデカップリング(分断)です。中国がこれまでと違い、安い商品・サービスを輸出できなくなったり、人手不足が起きたりすれば、企業はコストを上げざるを得なくなり、インフレは加速します。

一方、コロナ禍のサプライチェーン(供給網)の混乱は供給側の制約によるもので、一過性要因です。モノ不足が解消すれば段階的にインフレ圧力は弱まります。人口減少や世界的な債務の高さは逆にデフレ要因につながります。

国際通貨基金(IMF)によると、世界の官民が抱える2020年時点の債務残高はGDP(国内総生)の256%。日本も200%超です。こうした高い債務水準下でインフレの長期化は困難です。過去日本は債務が200%を超えた第2次世界大戦後にハイパーインフレを起こし、借金を帳消しにしました。

トルコやアルゼンチンのように対外債務が大きい新興国は、インフレ進行で債務支払いの負担が拡大する危険性が伴いますが、日本のように自国通貨で多くの債務を賄う国は、ハイパーインフレが起きる可能性も考えておくべきでしょう。その場合、預金や国債を保有している国民は資産が大きく目減りし、損失を抱えます。

一方、インフレの局面で株式は有利であり、厳選した銘柄に投資すべきでしょう。グロース株の先行きが厳しい中、防衛、食料、水産関連といったバリュー(割安)株に期待できそうです。不動産を保有しながら株価に価値が織り込まれていない銘柄も狙い目です。ベア(弱気)相場では、PBR(株価純資産倍率)が1倍割れの企業はパフォーマンスが良い傾向にあります。業績や資金繰りに問題がなく、自己資本比率が高いバリュー株への資金シフトは当面続きそうです。大きな上昇を狙うより、資産を守りながら配当を受け取るのもよいでしょう。

株のリスクを取れない場合は、金や金のETF(上場投資信託)を、実物資産では、不動産など売却に時間を要する資産は避け、供給が少なく希少で流動性が高いクラシックカーやアンティークコインなどを趣味を兼ねて少しずつ購入するのがよいとみています。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
日経マネー 2022年5月号 新年度の稼ぎ方&上がる株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2022/3/19)
価格 : 750円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン