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底を打った米国株、「不景気の株高」が開幕

広木隆のザ・相場道

理論的には株価は業績を金利で割り引いた値であり、今の米国株は業績が伸びないので、金利だけで決まる。その金利が上昇の一途にあるのだから、株価はそれに反比例して下がるのが道理である。論より証拠として、年初からの米S&P500種株価指数と長期金利のチャートを示し、きれいな逆相関になっている。前回の記事でこのように指摘した。

ところが、10月に入るとこの関係が崩れた。10月の米ダウ工業株30種平均は14%上昇し、1976年1月以来46年9カ月ぶりの上昇率を記録した。この間、長期金利は上昇を続けた。10月下旬には2007年11月以来15年ぶりの高水準となる4.33%をつけた。その直後に米紙ウォールストリート・ジャーナルの報道で米連邦準備理事会(FRB)の利上げペース減速の思惑が高まり、長期金利は一時低下した。それでも11月上旬の時点でまだ4%を超える水準にとどまっている。

「金利上昇で株価下落」という構図が崩れた理由をどう説明できるだろうか。実は前回ヒントを既に書いていた。「4%という長期金利が正しいかは別問題だ。とても正しいプライシングとは思えない」と述べた。これが理由だろう。端的に言えば、株式市場が債券市場のプライシングを信用しなくなったということだ。つまり、足元で4%を超える水準の長期金利は行き過ぎであり、いずれ低下すると見込み始めたのだろう。これは、株式相場が本来の数カ月先を読む機能を取り戻したと言える。

利上げの「終わりの始まり」

これまで足元のインフレの高止まりやFRBのタカ派的な利上げ姿勢ばかりに目が奪われていたが、ようやく利上げの終わりが意識されるようになったということだ。それはインフレより景気後退を重要なファクターと捉えていることを意味する。11月の連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見でパウエルFRB議長は「ターミナルレートは高くなる」と語ったが、それは政策金利の話。先の見通しを反映する長期金利は景気次第で低下に向かう可能性がある。

米国の10月の非農業部門雇用者数は前の月より26万1000人増加した。増加幅は市場予想を上回ったものの、雇用の増加ペースは鈍化しつつある。26万1000人という増加幅は2021年以降で最少だ。

米雇用動態調査(JOLTS)によると、非農業部門の求人件数は8月に大きく減少した後、9月には再び増加に転じたものの、ピークには及ばない。求人件数のピークは今年3月だった。時間当たり賃金の前年同月比伸び率のピークも3月、失業保険申請件数の最低も3月。こう見ると、労働市場の過熱のピークは3月だったと考えられる。

そこから大幅利上げが続いて既に半年が経過した。企業の動きとしても新規雇用の停止、解雇などの人員整理のニュースが増えてきた。いずれ雇用統計にも減速感がより鮮明に出てくるだろう。

景気が減速し、景気後退に陥れば、それはまた株式市場の悪材料ではないかと思われるだろう。しかし、今回の景気後退は恐れるに足らない。

半値戻しの相場格言実現も

直近の景気後退は、新型コロナウイルスの感染拡大によって生じた2カ月の景気後退なので極めて特殊だ。これを除くと、その前の3回は90年前後の商業用不動産バブル崩壊、2000年前後のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックとすべて巨大なバブル崩壊が経済・金融危機を招いた景気後退だった。

今回、仮に景気後退が起きるとしても、前述の巨大なバブル崩壊が要因となるものではないため、深刻なものにはならないだろう。景気の谷は浅く、短いものになるとみられる。全米企業エコノミスト協会(NABE)の10月の景況調査では、経済専門家のほぼ3分の2が米国は既に景気後退に陥っているか、あるいはまもなく陥る可能性があると考えている。過去のパターンにのっとれば、株価は景気のボトムに5カ月先行して底を打ち、上昇に転じている。景気後退の可能性を考えても9月末が米国株の大底だった可能性は高い。

ダウ平均は200日移動平均も越え、年初につけた高値から9月末の安値までの下げ幅に対する50%をわずか1カ月で取り戻した。相場格言では「半値戻しは全値戻し」という。米国株は既に本格反騰に入り、「不景気の株高」が始まったように思われる。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券チーフ・ストラテジスト。国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。
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