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課題だらけの東証市場再編、株高の起爆剤は

広木隆のザ・相場道

東京証券取引所の市場区分再編が目前に迫るが、全く高揚感はない。実質的に何も変わらないからだ。東証1部に上場する2180社のうち、最上位のプライム市場移行を選択した企業数は1841社と全体の84%。このうち同市場の上場維持基準に適合していない企業が296社あるが、基準適合に向けた計画書を開示すればプライム市場に移行できる。しかも、いつまでに適合要件をクリアしなくてはならないという期限の設定すらない。今回の再編が「骨抜きの改革」といわれるゆえんである。

批判の多い東証の市場再編だが、本来の問題意識は何であったか。平たく言えば、「企業数が多過ぎるから是正しよう」というものだ。多くの機関投資家が日本株運用のベンチマークとするTOPIX(東証株価指数)は現状、東証1部全銘柄で構成する。2000社を超える銘柄数は明らかに玉石混交である可能性が高く、流動性の劣る銘柄も多い。すなわち「質的にも流動性の面でも日本を代表する市場とそれを反映するベンチマークにふさわしくない」というのが改革の出発点だった。

ただ、日本株ベンチマークの銘柄数が問題なら、TOPIX500を使えばいいだけの話だと私は当初から各方面でコメントしてきた。米国株の代表的ベンチマークであるS&P500種株価指数はその名の通り、基本的に500銘柄から構成される。TOPIX500なら銘柄数は同数だ。

銘柄数を絞った指数でもパフォーマンスはほぼ同じ

だが、本当に銘柄数だけの問題だろうか。昨今の(指数連動の)パッシブ運用全盛の時代、TOPIXに含まれる銘柄は自動的に機関投資家の大規模資金によってバイ・アンド・ホールドされる。それが企業のモラルハザード(倫理の欠如)を生むという指摘がある。また、東証が市場の在り方について市場関係者からヒアリングを行った中には、低ROE(自己資本利益率)企業やコーポレートガバナンス(企業統治)が劣る企業が多く含まれることを問題視する声もあった。だが、果たしてそれが運用上の問題となるだろうか。

上のグラフを見てほしい。グラフはTOPIX、TOPIX100、JPX日経インデックス400の3指数の過去10年間の推移だ。TOPIX100は東証1部上場の時価総額上位100社から構成される指数であり、JPX日経インデックス400はROEなどにガバナンス面の定性評価も加味して選出される銘柄で構成される。どちらも我が国を代表する優良企業から成る指数だ。

しかしグラフから分かる通り、10年間のパフォーマンスはどちらもTOPIXとほとんど同じだ。銘柄数を絞ろうがROEなどを考慮しようが、玉石混交とされるTOPIXと変わらないのである。

上場企業の魅力向上が先決、市場関係者は皆危機感を

ここに問題の本質がある。インデックスをどうするか、というのは「パイをどう切り分けるか」という議論である。肝心のパイ自体を質・量共に大きくすることの方が何倍も重要である。日本の上場企業の魅力そのものが劣っていては、それらをどう組み合わせて指数を作っても誰にも相手にされない。無論それは取引所だけの責務ではなく、上場企業や投資家をはじめ市場関係者全ての課題である。

だが今回の市場再編の思わぬ副産物は、本来プライム市場に残れない企業の中で真剣に企業改革に取り組む企業が現れたことだ。実際、そうした企業の株価は底堅いが、ショートカバー(売り方の買い戻し)の側面も大きい。

また、ある不動産会社が出した適合計画書にはROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)のスプレッドを改善させて企業価値を向上させることが明記されている。これこそコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が求める資本コスト経営であり、企業価値向上の王道である。実は適合計画書の提出に際しては東証との事前すり合わせが必要で、不十分では受理されない。却下された企業に対して、東証はこの不動産会社のROICスプレッドを「お手本」として示したという。

こうした取り組みが多くの企業に広がるのであれば、もっと抜本的にプライム市場とTOPIXの銘柄数を絞る意味が出てくる。それは企業に価値向上に向けた努力を促し、日本株のパフォーマンス改善の起爆剤になる可能性を秘めている。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券チーフ・ストラテジスト。国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。

[日経マネー2022年5月号の記事を再構成]

日経マネー 2022年5月号 新年度の稼ぎ方&上がる株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2022/3/19)
価格 : 750円(税込み)
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