欧米「暖冬」の裏にある経済指標の異変(佐々木明子)
テレビ東京アナウンサー・佐々木明子のニュースな日々
厳しい冬が終わり、春がやってきた――という書き出しも、今年に限って言えば当てはまらないようだ。欧米では記録的な暖冬となり、消費行動もいつもと違う。

年末年始の気温が、統計開始以来の最高にまで上がったフランス。駐在する友人は、「暖かくて暖房をあまり使わなくて済んでるよ。週末は南仏に旅してくる」と満面の笑み。曰く、「物価は高いけれど旅行に行ける時に行かなくちゃね」。仕事一辺倒だった彼女のライフスタイルは、ウクライナ侵攻やコロナ禍を経て、「今を生きる」形に変容したようだ。
欧州は温暖化阻止に向けた「脱炭素」と、エネルギー依存を見直す「脱ロシア」を同時に進めている。番組では幾度となく、この冬場の欧州のエネルギー不足への懸念を報じてきた。だが予想外の暖冬によって一旦は危機を回避。温暖化が進んでいる懸念はあるものの、脱ロシアに関しては追い風となりそうだ。
ニューヨークも暖かい冬
一方、米ニューヨーク(NY)。例年1月の気温はマイナスだ。赴任していた時はマイナス20度の日もあり、足首まであるダウンコートに手袋、マフラーの完全防備でも、ワンブロックすら歩けない厳しい寒さを体験した。買い物する気も失せる、暗い極寒のイメージがあるNYだが、今年は違った。
記録的な暖冬で雪が降らず、百貨店は買い物客でにぎわい、NYに住む友人は「コロナ禍の手厚い失業保険を受け、懐も温かい冬になっている」と話す。
今年は1月17日から2月12日まで開催された「レストランウイーク」。普段は手が届かないお値段の有名人気レストランなどが、特別価格でメニューを提供する人気のイベントだ。「でも全然予約が取れないの。ネイルやヘアサロンも人手が足りないから待たされるし、値段も上がったよ」と友人。物価は目が飛び出るほど高いそうだが、街には旅行客や若者があふれているそうだ。
オンラインでの友人たちとのこうした会話から、経済指標の異変が察知できる。米国の1月の経済指標は雇用統計に小売売上高、企業の景況感など、軒並み予想を上回る強さとなった。しかし「いつもと違う」というのは厄介である。経済活動が翻弄されるからだ。
「暖冬で冬物が全然売れない」「スキー場は雪がなくて閑古鳥だ」といった悲鳴が聞かれる。一方で「観光客が戻り、活況」「暖冬の影響で豊作で、冬物野菜の価格が下がった」という話もある。「いつもと違う冬」が訴えてくるのは、温暖化の進行なのか。スタジオで指標の結果に振り回される日々は続きそうだ。
夫に言われてスケジュール帳を電子化し、共有したものの、やっぱり手書きに戻ってしまう。紙に残された筆圧や言葉といったものから、見れば鮮やかにその時の記憶がよみがえるからだ。時間管理や地図表示などは便利なのだけれど、充電切れ寸前の恐怖を思うと、手書きはやはり安心するものだ。
「佐々木明子のニュースな日々」は、国内外の経済やマーケットの動きを伝えるテレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターを務める佐々木明子さんが、金融・経済の最前線の動きや番組制作の裏話などをつづるコラムです。
著者 : 日経マネー
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