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マイナンバーカード、不思議なケースに凝縮する不作為

知っ得・お金のトリセツ(99)

(更新)

あなたのマイナンバーカードは「ケース」に入っていますか? 交付時にもれなくついてくるペラペラのプラスチック製のアレ。全体は透明だが3カ所、不思議な灰色の塗りつぶしで目隠しが施されている。隠れるのは12ケタのマイナンバーそのものと、性別と、臓器提供の意思部分。「なぜ、そこ隠す?」と考えると国民の疑問や不審に真っ正面から向き合うことなく、なし崩しで進められてきたマイナンバー制度の不作為の罪が浮き彫りになる。導入以来間もなく7年となり、技術革新も日進月歩。本気で2年後に今の健康保険証を廃止して「マイナ保険証」に一本化するつもりなら、そろそろ本腰を入れて国民の間で根強い数々の疑問に真摯に答えるべきだ。

根強い「マイナンバーの疑問あるある」

1人当たり2万円分というマイナポイントの強力なバラマキパワーで、長らく低空飛行だったカードの普及率自体は来春6割以上に上がる見通し。だが国民の間では依然として素朴な「マイナンバー/マイナカードの疑問あるある」が存在している状態だ。代表例が「マイナカードは大事だから持ち歩かずしまっている」。制度開始後すぐ律義にカードを作った高齢者の方などに多い誤解だ。「万一落としたら大変なことになる」と思いがち。なぜなら券面には「人に知られてはいけない」と言われてきた12ケタのマイナンバーが載っているから。

カードは持ち歩くの? 番号は見せていいの?

念のために改めて。マイナンバーとマイナンバーカードは分けて考える必要がある。12ケタの「個人番号」(その通称が「マイナンバー」)は好むと好まざるとにかかわらず日本に住民票を持つ全員に割り振られ、行政は既に業務効率化のためガンガン活用している。「国民総背番号制に反対なので私はいりません」というわけにはいかない。ただしマイナンバー法で利用範囲が税と社会保障と災害対策の3分野に限られ、それ以外の目的で収集したり活用したりしないよう厳しく制限される。

一方のカード。こちらはもともと携行しての活用が想定された作りだ。入館証や図書館カードとして使用することができる上、ICチップに格納された電子証明書を使った公的個人認証機能は、行政のみならず金融機関など民間サービスに広く門戸が開かれている。保険証化するとマイナカードを持ち歩かねばならない「恐怖」を口にする人もいるが、そもそもカードは持ち歩き仕様で設計された。にもかかわらず……。

隠れてるから安心……なわけない

問題は「みだりに知られてはいけない」と広報活動した12ケタの個人番号そのものを券面に刻印したことだろう。個人がカードを使う際、12ケタが必要になる場面はほとんどない。政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」を利用する時や確定申告の際にも肝心なのはICチップ内の電子証明書。健康保険証として使う場合もマイナンバーそのものは使わない。

要は国民自身による利活用より、行政側の使いやすさに主眼を置いた作りなのだ。制度発足当時も議論はあったが、結果的に解決策として登場したのが目隠しケースだった。お役所作成のQ&Aは「目隠しされているのでレンタル店で身分証明として使っても大丈夫」と個人利用の際の利便性を強調するが、あの「ペライチ」で安心と言われても……。さらにカード裏面にはQRコードもついている。実はこれは12ケタの番号そのもの。スマートフォンをかざすとくっきり浮かび上がるが、こっちは目隠しされていない。やはり行政作業時の便宜優先設計だ。

「面倒なものにはカバー」では済まない

そしてマイナンバー以外に隠されているその他2つが性別と臓器提供の意思であるところも不思議だ。お役所的には「プライバシー性の高い情報」というわけだろうが、2つのプライバシー度合いは相当違う。性別は氏名、住所、生年月日と並ぶ「住民基本4情報」の構成要素だ。身分証明書である以上必要な要素だが、目隠しがされているのはカード導入時に問題になった、性同一性障害の方々への配慮不足に対するいわば応急処置だったはずだ。

健康保険証や免許証と一体化を進め「マイナ身分証明書」として普及させるのであれば単なるペライチのカバーで解決としない対応が必要だ。現行の健康保険証の場合は、申し出に応じ戸籍名と異なる通称名での券面表記が可能。性別についても「裏面記載」のような形で目立たせない工夫が認められている。そして運転免許証にはもともと性別欄がない。

2年後の一本化に向け本格的な議論を

政府はここへきて「番号が知られただけでは悪用されないという正しい理解を促すため」目隠しケースの配布廃止も検討中という。廃止しただけで正しい理解が生まれるわけもない。マイナカードに目隠し付きで表記欄があっても一向に改善しない臓器移植のドナー不足問題も含め、これを機に本格的な議論を進めるべきだ。マイナンバーとはどういう番号で他人に知られても本当に大丈夫なのか? 将来的にどこまでの利用を想定し、どんなメリットを得るのか? そして通称名表記、性別表記という個人のアイデンティティーをどう守るのか? 全ての根底に国への信頼が必要だ。 

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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