道路交通法改正、電動キックボード規制緩和への懸念
生保損保業界ウオッチ(損害保険)

我が国の交通事故件数は減少が続いています。2021年は約30万件で、ピークだった04年の3分の1以下になりました。
他方、事故件数に占める自転車による事故の割合は5年前から増加しており、全体の2割超と悪化しています。
免許不要で誰でも運転できますが、自転車は道路交通法上の軽車両。運転者の責任はクルマと変わらず、事故の加害者は行政上・刑事上の責任、さらに民事上の責任を負うことになります。
自転車に安全運転の向上が強く求められるなか、昨今普及しつつある電動キックボードで、懸念が広がっています。
持ち運び可能で玩具のような外観でも、電動キックボードは現行法上、原動機付き自転車です。走行には運転免許が必要で、ナンバープレートや方向指示器などの装備はもちろん、ヘルメット着用も義務。走行できるのは車道のみで、歩道を走行することはできません。ところが、この電動キックボード利用者の交通違反は、21年12月までの3カ月間で304件が警察庁に報告されています。その内訳は整備不良が37%、無免許走行が23%、歩道通行など通行区分違反が22%とあり、整備不良といった走行のための前提すら満たしていないケースが多数見られます。
自動車並みに深刻な人身事故も起きています。歩道を走行して歩行者に衝突、重傷を負わせた大阪府の事故では、加害者が逃走し、後に過失運転致傷および道交法違反の疑いで逮捕されています。
タクシーに追突し乗客に軽傷を負わせた東京都の事故では、加害者が無免許危険運転致傷、さらに自賠責法違反、道交法違反の疑いで書類送致されています。原動機付き自転車に義務付けられる自賠責保険には未加入だったため、加害者は被害者への賠償金全額を自分で負担しなくてはなりません。
トラブル増加を受け、警視庁は21年12月上旬から東京都内での取り締まりを強化しています。酒気帯び運転も相次いでおり、電動キックボードのシェアリング事業者に安全対策を強化するよう、5月に要請しています。
自治体も手をこまねいてはいません。中央区は5月、事故の危険性が高いエリアでの交通規制、通行禁止区域の整備などを求める要望書を警察庁に提出しています。
利用規制が大幅に緩和
こうしたなか、この4月に改正道路交通法が成立しました。これにより電動キックボードの利用規制が、なんと緩和されます。
既に走行している電動キックボードは現行規制が適用され続けますが、今後定める保安基準を満たした機体は、運転免許が不要となり、かつ歩道の走行も一部で可能になります。改正法の施行は2年以内の見込みですが、それまでに義務である保険への加入はもちろん、交通ルール順守が徹底されるべきです。

学生時代から生損保代理店業務に携わり、2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。翌年、生活設計塾クルー取締役に就任。『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)など著書多数。財務省「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」委員。社会福祉士。
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