23年の不透明相場に備える 「年始の計」を今から - 日本経済新聞
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23年の不透明相場に備える 「年始の計」を今から

2023年に備えるマネー戦略(3)

今月は2022年のマネーのトピックスを振り返り、23年のお金のテーマを取り上げています。今週は23年の資産運用のあり方について考えてみましょう。

22年は海外の株式市場の下落があったかと思えば、急激な円安、さらに年末にかけての円高方向へ巻き戻しがあるなど、資産運用をするのに難しい年となりました。私たちは来年の投資方針をどう考えていくべきでしょうか。

右肩上がりが続いた株式市場に変化の兆しか

最初にちょっと、古い話をします。リーマン・ショックが市場に大きな下落をもたらし、日経平均株価も1万円を割っていた08年後半から12年末のころの話です。個人型確定拠出年金(iDeCo)や少額投資非課税制度(NISA)を通じて個人の資産運用が本格的にスタートするより前であり、株式市場は数年ごとに大きく上下動するのはごく普通のことでした。

しかしリーマン・ショック後の世界経済の回復、アベノミクスによる国内株式市場の上昇が始まって以降は、基本的には右肩上がりの株式市場の推移が世界的に続いてきました。

コロナ・ショックといわれた2020年1~3月期のように大幅下落した時期も何度かあったものの、短期的に反転し回復したのも近年の特徴です。かつてはリーマン・ショックのような急落相場は回復までに3~5年の調整期間を必要としたものです。ところがコロナ・ショックはわずか3カ月で直前の水準を回復をしています。

これはつまり、日本の株式および米国を中心とした外国株式への投資は、とにかく持ち続けていればおおむねリターンが得られる相場だったということです。

この間、日本ではNISAがスタートしたり、iDeCoや企業型確定拠出年金制度が浸透したりして、個人が長期・積立投資を行うようになりました。彼らの多くはリスクを取った見返りを得てきたわけです。

ところが、22年にちょっと風向きが変わってきたように思います。年初に記録した最高値を国内株も米国株も超えることができず、下落が続きました。回復基調にはあるものの、株式市場の下落の兆しもささやかれます。為替レートは一時、急激な円安に直面しました。

では、来年の資産運用はどうすべきでしょうか。

長期・積立・分散投資のルールは変わるか?

一般に、個人の資産運用は長期投資、積立投資、分散投資を活用することが好ましいとされてきました。実際に少額からの積立投資を継続してきた人にはこの十数年にわたって、しっかりとした利回りが確保されてきたと思います。

ただし、長期・積立・分散投資が元本割れをしない、という意味ではありません。ここを誤解しないようにする必要があります。中長期的にはプラスリターンにリスク資産の収益率が向かっていくとしても、短期的には下落相場の影響を受け、元本割れをすることもあります。

長期・積立・分散投資をしている個人は、株式市場が下落しているとき、資産価値が減少してくることも受け入れる必要があります。もしかしたら23年はそういう局面がやってくるかもしれません。

リーマン・ショックのときもそうでしたが、下落相場では「長期・積立・分散投資は間違いだった」とか「だから短期売買が理想的なのだ」というような意見が現れます。確かに元本割れしてしまうとそう悩んでしまうかもしれません。

あなたの続けやすく、負担のない投資方法を選択したいのであれば「もしも23年、下落したときどうするか」を今年のうちに考えておくことをおすすめします。

下落相場が数年続いても続けられるスタンスで

それでは株式市場がしばらく下落基調に転じた場合において、長期・積立・分散投資はどう考えていくべきでしょうか。

2つの目線が必要になります。まず「新しく積み立てていく資金」について、株価の下落局面は「安く購入するチャンス」と考える目線です。経済は生きているからこそダイナミズムがあり上下動します。そして経済はしぶとく回復を繰り返していきます。短期的なタイミングを読み切ることは困難ですが、長期・積立投資家にとっては下落時期は安く買うチャンスでもあるわけです。

もう一つの目線は「すでに積み上げてきた資金」についてです。長期投資家であれば一時的な含み損は気にせず長期保有をし回復を待ってみたいところです。あなたの投資のゴール(リタイア生活など)がまだまだ遠い将来のことであれば、今現在のマイナスに焦る必要はないからです。

値下がり時に焦って売ってしまうタイプの人は売買手数料が生じてさらにマイナスになるだけでなく、その投資資金分をうまく再投資することができません。

なぜなら、「売却時より低い時点で再投資」することが必要であっても、怖くて心理的に困難だからです。かといって「売却時より株価が上がった時点で再投資」することはまったく意味がありません。それなら売らないで持ち続けたほうがベターということになります。

「手持ち分についてはまだ高いうちに売り抜けて、最安値で買い直したい」という人もあるでしょうが、これもなかなかうまくいきません。株価の底の判別は困難ですし、そのとき勇気を出して購入するのはもっと難しいでしょう。結果として買い直さずにずっと現金保有になるなら保有し続けたほうがいいでしょう。

仮に23年に相場が下落しても、新規積立投資は継続し、既存の積立投資分については持ち続けることを、今のうちから検討してみてはいかがでしょうか。

結果として上昇が続けばそれはそれでいいわけです。「○○ショック(名称は未定)」が23年にあったとき、パニックにならない準備をしておきたいものです。

リタイア直前世代は投資スタンスを整理も

ただし、売却を真剣に検討すべき人もいます。長期投資ができなくなった人です。老後資金、住宅資金など、実際に資金の使用期限が迫っている人は投資からの部分的な撤退を考えてもいいでしょう。

現実のマーケットが下落するか回復するかは分かりません。しかし、自分自身のリスク許容度の変化は個人が判断することができます。

例えばリタイアまで1年を切っていて、相場急落の直撃を避けたい場合は、いったん投資から降りてみるのもひとつの判断といえます。2~5年くらい先にリタイア予定がある場合も、部分的に投資資金を売却しておく戦術が考えられます。

投資資金の一部が教育資金や住宅購入資金を含んでいる場合も、その分については売却しておくことができれば、これ以上の下落があっても損失拡大を回避することができます。もちろん、将来の株価上昇時のリターンは享受できなくなりますが、必要資金の確保という安全策をとるべきです。

一方で、人生100年時代を視野に「65歳だからといってあえて売却をしない」という選択肢もあります。「まだまだ私は長期投資家だ」と考えられるなら、それは個人の投資スタンスとしてあってもいいでしょう。

23年のマーケットは、不透明さを増しつつあるように見えます。今週は盛りだくさんのテーマがありましたが、自分の運用状況をチェックし直し、投資方針の「23年年始の計」を考えておきたいところです。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp

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