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さよなら年金手帳 マイナカードへの移行は道半ば

知っ得・お金のトリセツ(62)

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年金手帳

あの「年金手帳」がなくなるという。国民皆年金制度の日本において20歳になると全員が加入することになる、公的年金の被保険者(加入者)の証しであるアレ。縦約15センチメートル、横約10.5センチメートルの薄い手帳だ。

手元にはないけど「重要書類」

自営業者の国民年金と、勤め人が入る厚生年金などを1冊で管理して、転職して加入する年金が変わっても一元管理する狙いで導入された。色は発行時期によって2種類。1974年から96年までの間に発行された手帳の表紙はオレンジ色で、97年以降は青色だ。色以外、中身はほぼ同じ。氏名・生年月日・性別など個人の基本情報と年金加入年月日、そして基礎年金番号が記載されている。

公的な身分証明書としても使えるし「重要書類らしい」との認識は共通しているだろう。実際、手帳には「将来年金を受け取るために必要となりますので大切に保管して下さい」の注記もある。だが、実際に何がどう大事で、いつ使うのか……考えてみれば不思議な存在だ。なんせ会社員の場合、会社に提出していて手元にない人も多い。「家で紛失されると会社が再交付手続きをしなくてはならず面倒だから」(ある大企業の実務担当者)だ。

役割は2つ 記録と番号通知

その年金手帳が来年4月施行の「年金改革法」に基づき廃止される。今までは国内居住者が20歳になり、自動的に国民年金被保険者になると保険料納付書と同時に手帳を送っていたが、これを廃止する。だが、既に発行済みの手帳については「基本的には何も変わらない」(日本年金機構)。会社は今後も手間暇とスペースをかけ、保管することになりそうだ。

そこで改めて手帳の役割を確認すると2つ――①保険料納付の記録と②基礎年金番号の本人への通知だ。しかし①については既に導入当初から形骸化していた。記入欄こそあるが、実際には手帳に印字して使ったりはせず、システム上の管理で完結している。②の基礎年金番号(4桁と6桁に分かれた10桁の数字)は年金制度加入時に割り振られ、生涯変わらない「1人に1つ」の固有の番号として、個人と年金記録をひもづけるという。

基礎年金番号は既にマイナンバーとひもづいているが…

こちらは今後も変わらず重要らしい。来年以降は手帳の代わりに「基礎年金番号通知書」が発行される。厚労省の資料によると「年金手帳の代替として年金制度の象徴となるようなシンボリックなもの(色つきの上質紙など)とすること」「手元に丁重に保管してもらうため(略)大臣印の印影をいれること」が検討されているという。

「いる? それ、いる?」。思わず素朴な疑問が口をついて出てしまった。「マイナンバーカードでよくない?」

16年から行政手続きで使われているマイナンバーは、これまた日本に住む全員が持つ生涯変わらない「1人に1つ」の固有の番号だ。こちらは12桁で現状では税と社会保障と災害対策の3分野で使われている。もちろん年金記録とはバッチリひもづいており、住民基本台帳ネットワークが基なので結婚や引っ越しで住所や名前が変われば年金情報にも反映される。いまや会社での年金手続きも含め、ほとんど全ての公的年金の手続きがマイナンバーだけで可能だ。

マイナンバーカードの普及は3人に1人

個人もプラスチック製のマイナンバーカードがあれば、ポータルサイト「マイナポータル」を通じて日本年金機構が運営する「ねんきんネット」とつながって、パソコンやスマホでいつでもどこでも自分の年金記録を確認できるようになっている。

ところが、肝心のマイナンバーカードの普及率はようやく3人に1人になった段階。残りの3人に2人がねんきんネットに入るときに、依然必要なのが基礎年金番号というわけだ。しかし、自分の基礎年金番号を理解して把握している人は少ない。番号が分からなければどうするか? 機構のQ&Aサイトによると「年金手帳を見る」「(年金手帳を保管している)会社に聞く」とある。あれ? DX時代に不思議な堂々巡りに付き合わされている気分になる。マイナンバーが普及すれば不要ともいえる番号を確認するために紙の「手帳」がいるとは…… 

複雑怪奇な年金関連ナンバー

そもそも年金回りのナンバーは複雑で不可思議なことが多すぎる。例えば年に一度誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」。これには基礎年金番号は記載されていない代わり「照会番号」が書いてある。これを使えば、ねんきんネット専用電話や年金事務所経由で基礎年金番号を郵送で送ってもらえるという。

なぜ基礎年金番号そのものを載せないかというと、定期便にはねんきんネットの登録に必要なもう1つの番号「アクセスキー」を記載しているからだという。定期便に両方を記載してしまうと「第三者がご本人様になりすまして『ねんきんネット』を利用する危険性が高くなるため」とQ&Aにある。ご丁寧にアクセスキーには3カ月という有効期限もある。それを過ぎると、ねんきんネットを利用するために郵送でのやり取りが必要になる。「何かが間違っている」……多くが思うはずだ。道のりは遠い。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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