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株式はインフレヘッジになり得るか

広木隆のザ・相場道

4月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く総合指数)が前年同月比で2.1%上昇した。2%を超えたのは、消費増税の影響があった2015年3月以来、約7年ぶりだ。足元の物価上昇の主因は、ガソリンや電気代・ガス代などのエネルギー価格の上昇によるものだが、食料品などを中心に物価の上昇がじわりと広がっている。

物価だけ上がって賃金が上がらなければ国民の生活は苦しくなるが、賃金についても明るい兆しが出ている。日本経済新聞社がまとめた22年の賃金動向調査で、定期昇給とベースアップを合わせた平均賃上げ率は4年ぶりの高水準だった。賃上げが広がった背景には、上場企業の業績が好調で最高益が相次いだことがある。

人々のデフレマインドが緩やかだが氷解に向かい、企業が値上げによって利益を獲得できるようになる。企業が稼いだ利益を従業員への分配に回せば給料も上がる。いい循環が始まるかもしれない。

企業利益増加率がインフレに追い付けないケースは多い

ここで問題は「インフレ下でも株式投資は有益なリターンを上げられるか」、つまり「株式はインフレヘッジになるかどうか」だ。「理論的に株式はインフレヘッジとして機能する」と説くのは米経済学者のジェレミー・シーゲル氏だ。

期待インフレ率の上昇は将来の期待キャッシュフローも増加させる。たとえ金利が上昇する局面でも、株式から得られる将来キャッシュフローの現在価値はインフレの悪影響を受けない。将来のより高いキャッシュフローが金利上昇を相殺し、時間の経過とともに株価はインフレ率と同じペースで上昇するからである。とは言え、現実には利益の上昇率がインフレに追い付けないことはよくあるとシーゲル氏も認めている。

実際に過去のデータで検証してみよう。米S&P500種株価指数の長期データを使って相関係数を調べた。名目の1年リターンはインフレと弱い正の相関があるが、CPIで実質化した実質1年リターンはインフレと弱い負の相関であった。つまり、インフレが高まる局面では株価は上がるには上がるがインフレ率の上昇に追い付けないということだ。

具体例を見てみよう。英ヘッジファンドのマン・グループのヘンリー・ネヴィル氏らの分析によれば、米国は1926~2021年にインフレ年率が2%を超えて5%超まで上昇した時期を8回経験した。8回のインフレ期は以下の表の通りである(インフレ率はヘッドラインCPI)。

インフレ期に米国株の実質リターンがプラスだったのは8回中2回のみで、8回の年率実質リターンの平均はマイナス7%であった。つまり、完全なインフレヘッジにはならなかったということである。しかし、それはインフレ期に株式を手放す方がよいという結論には結びつかない。

インフレ期以外にのみ株式投資する戦略は高難度

株式の年率実質リターンは、インフレ期には確かにマイナスだったが、非インフレ期は平均10%のリターンを上げた。インフレ期には株式を持たず、非インフレ期にだけ株式に投資するというようなマーケットタイミング戦略は非常に難しい。上がる時だけ株に投資して、下がる時には投資しないというようなものだからだ。それに長期で見れば非インフレ期の方が圧倒的に期間が長い。それゆえ、株式の長期リターンの平均は極めて高いのである。

従って、株式への投資は継続したまま、インフレにはポートフォリオの中身を替えて対応しよう。重要な投資戦略は業界のトップ企業に投資することである。高い製品力やブランド力があるため、値上げが通りやすい。インフレ期にはコストを製品価格に転嫁できるか否かが銘柄選択の鍵を握る。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券チーフ・ストラテジスト。国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。
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