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「悪い円安」論は正しいのか? 海外事業ではプラスも

広木隆のザ・相場道

外国為替市場で著しく円安・ドル高が進んでいるが、日本株相場は上値が重い。かつては円安・株高はセットで捉えられていたが、足元ではその法則は当てはまらない。なぜ円安になっても日本株が買われないのか?  その理由については諸説あるようだが、一つには今般の円安が日本経済にとってマイナスだから、というものがある。いわゆる「悪い円安」論だ。その背景を日本経済新聞電子版の記事はこう解説している。

日本では中小企業が企業全体の99.7%、従業員数の69%を占める。その売上高に占める輸出比率は約3%。日銀の黒田東彦総裁が『円安は日本経済にプラス』と言っても理解されにくく、『悪い円安』論が勢いづくゆえんだ。(「円安・資源高には『知の輸出』 変わる貿易構造」2022年4月20日付

それはもちろん、事実である。しかし我々が問題にしているのは上場企業の株価であって、中小企業を含めた日本企業の総論ではない。「日経平均株式会社」は「日本株式会社」とは違うのだ。単純化した図式を言えば、「グローバル vs.ローカル」ということである。

上場企業は国内景気低迷下も、グローバルで稼げる力あり

ここで思い出されるのが14年度の我が国の経済状況だ。14年度の実質GDP(国内総生産)は前年比1.0%減と、世界金融危機の余波が残った09年度以来5年ぶりのマイナスとなった。期初に実施された消費増税が大きく響いたためだ。年度後半からは持ち直しの動きも出たが、前半の大幅減を埋められなかった。

ところが、である。15年3月期の上場企業の経常利益は7年ぶりに最高を更新した。コスト構造の改善も寄与したが、円安を追い風に海外事業の収益が伸びたのだ。日本の上場企業は国内景気が低迷してもグローバルで稼いで利益を上げられる。そのことを証明した象徴的な年となった。今起きていることはその延長線上にある。円安は日本経済全体にとってはデメリットの方が大きいかもしれないが、上場企業の業績に限って言えば、まだメリットの方が大きい。

長きにわたって日本の輸出産業を苦しめてきた円高によって、日本の産業構造が変わったという事実はある。各社は現地生産体制を構築するなど、円高対策を施してきた。それゆえ、円安になっても日本からの輸出が伸びないのは当然である。

しかし輸出=海外事業ではない。日本のグローバル企業は、現地法人によるビジネスや海外企業への出資など、様々な形態の海外事業を開拓してきた。日経平均構成銘柄の海外売上高比率は50%を超えている(開示がある企業の単純平均)。この海外での収益は円安によってかさ上げされる。円安は当然のように上場企業の業績にプラスの効果を与えるのだ。

為替感応度の高さは銘柄選択の重要な要素に

下のグラフは、「為替感応度」の大きさに従って5つのグループに分けた銘柄群の、過去3カ月の株価パフォーマンスを見たものである。これによると最も為替感応度の高い第1グループのリターンはプラス6.9%、反対に為替感応度の最も低い第5グループのリターンはマイナス6.5%と、わずか3カ月で約13%も差が生じている。これが示すことは、為替感応度が銘柄選択の有効なファクターとして機能しているということであり、端的に言えば、円安は株式市場でポジティブに評価されているということに他ならない。

以前、円高の時代は円高悲観論がまん延していた。今度は円安になったらなったで、「悪い円安」論だ。メディアというものは、常にネガティブ思考である。しかし、物事には常に2つの側面がある。これは為替レートでも同じこと。円高には悪い面もあれば良い面もあるように、円安にも両面ある。足元の円安は「悪い円安」と否定的な面ばかりが強調されるが、企業業績に与えるプラスの面をもっと評価すべきだろう。事実、株式市場は既にそうしているのだから。

ここまで述べてきたことは全体論である。しかし株価には癖のようなものがあって、為替に敏感な銘柄とそうでない銘柄とがある。外需産業に属しているからといって円安で株価が上がるというものではないことに注意が必要だ。実際にその銘柄が為替にどれだけの反応をしているかを日々チェックすることが肝要だろう。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券チーフ・ストラテジスト。国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。
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