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コスパとタイパ 「幸せ」を求める消費とは

お金のウェルビーイング(3)

私は個人のお金の問題について情報発信するファイナンシャルプランナーですが、「お金と幸せの問題を考えるファイナンシャルプランナー」と名乗ることがあります。「ウェルビーイング(心身の健康や幸福)」のテーマを耳にして最初に感じたのは、これこそまさに私が伝えたかったテーマなのではないか、ということでした。

お金のウェルビーイング、ファイナンシャル・ウェルビーイングについて今回は「消費」と「節約」にからめて考えてみます。

今はやりの言葉との共通項

最近、タイパ(タイムパフォーマンス)という言葉を耳にするようになりました。三省堂が「今年の新語2022」大賞にも選定し、辞書にも取り上げられる可能性がある新語として紹介しているほどです。

タイパとはタイムパフォーマンスの略で、コストパフォーマンスという言葉の頭を「時間」と入れ替えてみたものです。コストパフォーマンスの略がコスパであることに対応しています。

コスパのほうが「費用対効果」という意味合いならタイパは「時間対効果」ということになります。Z世代は映画を早送りして視聴するとか、楽しくない飲み会は遠慮なく断るようになったなど、無駄な時間の浪費を気にするようになりました。しばしば世代間ギャップの話題として取り上げられています。

しかしタイパのもうひとつの本質は、「無感動なものにはお金(と時間)を使わない」ということであり「感動消費には惜しみなく時間やお金をかける」というところだと私は考えています。近年、アニメ映画の大ヒットが相次いでいますが、「封切り後すぐに劇場に観に行く」という行為については正規料金を支払い、早送りもしません。Z世代でもそうです。

そこには「満足を人より早く買う」という消費行動がありますと高い満足にはお金をきちんと払うというのもタイパの特徴だと私は考えます。

ファイナンシャル・ウェルビーイングを考えるときにも、「消費」を単なるコストカットではなく、コスパ・タイパで考える視点が重要ではないかと思います。

日常も特別なイベントも「感動消費」を意識

幸福度についての調査研究が示唆するところでは、「モノの消費」と「経験や感動への消費」を比較すると、経験や感動への消費のほうが幸福度が高いそうです。

物欲を満たしたとしてもそれは一時的な満足であってじきにしぼんでいきます(あるいは別の消費欲の充足で代替するしかない)。しかし経験、たとえば「生まれて初めてキャンプに行って夜に流星群を見た経験!」のようなものは一生残る記憶になり、長期にわたって幸福感をあなたにもたらします。

これは旅行のような高額イベントに限った話ではありません。日常の消費生活にも「感動消費」を応用してみましょう。先ほどの映画の感動は数千円で十分に幸福度を手に入れることができます。大好きな連載マンガの新刊は価格以上の満足をもたらしてくれます。

「推し」のアイドルのコンサートチケットは1万円かからずとも、あなたにたくさんの幸福をもたらします。2時間のコンサートの当日はもちろん、抽選に当たった歓喜から当日までの期待も幸福感ですし、終了後の余韻もあなたに幸福をもたらします。これほど「タイパ」のいい消費と満足はないでしょう。

「消費」と「幸福」の結びつき、私たちは日常生活において意識できているでしょうか。何も変わらない、繰り返しの日々だからそんな幸福はない、と思ってはいないでしょうか。それこそ「コンビニの新商品スイーツを気まぐれに買ったけど、想定外においしかった! きょうの仕事のストレスが吹っ飛んだ!」でもいいのです。

こうした「感動」は「高額消費=高い幸福度獲得」という単純比例ではありません。自分が自覚して選び取って消費をしていくことが必要です。

特別な出費、高い出費に見合う幸福を買おう

消費生活には日常の少額出費の積み重ねをする部分と、ときどき高額の出費をする臨時出費とがあります。

高額の出費は「イベント前」「イベント中」「イベント後」と幸福感を味わえるのが理想的です。先ほどのコンサートチケットがまさにそうですし、家族旅行などもこの工夫のあるなしで満足度が大きく変わってきます。

今から「今年の夏は、沖縄に行きます!」と宣言しておけば、子どもは盛り上がります。事前に観光ガイドを親子で読んで計画を立てるのも幸せな時間になります。終わった後も夏休みの宿題の定番「絵日記」を一緒に書けば思い出は記憶に刻まれます。旅行中に楽しいのは当たり前ですから、「前」と「後」をもっと楽しむ工夫をするのです。

物欲からの買い物も、事前リサーチに時間をかけるほど総量としての幸福度は増します。思いつきで即決買いするのはあっという間ですが、新商品の発表会を動画配信でチェックし期待を高め、レビュー記事などを読み込み、あるいは何度もお店に通って店員の意見を聞いてから買ったほうが、失敗も少なくまた買い物の達成感も高まります。

高額出費は金額も大きいだけにたくさんの幸福を自分や家族に引き寄せられるよう、いろいろな仕掛けを講じてみたいところです。

「変化」や「落差」が日常消費の満足度を高める

日常生活のほうはどうでしょうか。ウェルビーイングを高める買い物術というと、ついつい「高品質のものをしっかり見極めて買う満足」のような議論になりがちです。それはそれでひとつの正解ですが、私はむしろ普通の消費生活にも幸福は潜んでいると思います。

例えば日常生活の消費に「変化」をつけてみましょう。いつも同じモノを買うより、ときどき違うモノを買ってみます。朝食のパンひとつとっても、違うブランドの食パンやロールパンを買ってみます。「おや、これも案外おいしいじゃないか!」というような発見があれば、幸福度は増します。

たとえ平均価格は同じでも、毎日同じものを無感動に食べるより変化があるほうが幸せになれるのです。その変化をつけるのは自分自身の観察と選択です。

「落差」を意識的に作るのもポイントです。日本庭園が高低差を巧みに使って水流を楽しませるように、日々の生活の変化に落差を取り入れてみます。

時々いつもより高いモノを買ってみたり、時々いつもより安いモノをあえて買ってみたりします。私は週イチくらいでジャンクなランチを食べるのが好きです。ファストフードやインスタント食品も週イチなら楽しみに変わります。

予算を下げたランチの日をはさむことで、ときどき予算を高くしたランチを食べることもできます。平均価格はキープしつつ落差を作ることで、出費額以上の満足や幸福感をゲットする戦法です。

きょうから1週間ほど、食事やコンビニ、スーパーでの買い物について「満足はあるか」「この買い物は幸せを私に与えてくれているか」「違う選択肢はないだろうか」と自問自答してみてはどうでしょうか。

いつもと同じ買い物のルーティンに変化をつけてみてください。周囲を見回すクセをつけるだけでも、日々がちょっと楽しくなってくるはずです。それもまたファイナンシャル・ウェルビーイング向上の一歩だと思います。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp

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ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏が若年層に向けて、「幸せな人生」を実現するためのお金の問題について解説するコラムです。毎週月曜日に掲載します。

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