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長期円安時代に備える国際分散投資の役割

積立王子への道(60)

投資の世界で「積立王子」のニックネームを持つ筆者が、これから長期投資に乗り出す後輩の若者にむけて成功の秘訣を伝授するコラムです。

アベノミクスは円安誘導でデフレ脱却を図ったが…

9月に入り円は対ドルで140円台と円安が進んでいる。年初は1ドル=110円あたりだった水準からすれば、8カ月あまりで30円幅で円の通貨価値が下がったわけだ。これほどの短期的な円の価格変動は、巨額の貿易黒字で米国から強制的に是正された、1985年の「プラザ合意」の時の円高シフト以来の急変と言ってもいい。

第2次安倍晋三内閣の発足で始まったアベノミクスでは、政府も産業界も円安進行を歓迎していた。2012年当時は日本経済がただ中だったデフレからの脱却が最優先事項だったからね。政府と日銀がタッグを組んで金利を極限まで引き下げ、同時に市中の通貨供給を増やす量的金融緩和を行うことで、円の価値を下げる方向に誘導。円安が進むことで日本の輸出企業は対外的に売り上げを拡大する環境を得た。輸出振興で国内経済の成長喚起を企てたわけだ。

今回は海外発の要因で円安が進んでいる

つい最近まで円安は日本経済全体に追い風というのが共通認識だった。だからこそ日経平均株価も12年の8000円台から今の2万8000円台まで急回復したわけだ。しかし今回の円安進行は政府の意図せざる動きだ。新型コロナウイルス禍の後の需要急増という一時的要因に加え、ロシアのウクライナ侵攻が重なったことで資源エネルギー価格が急騰。米欧先進国でくすぶっていたインフレが世界規模での高進につながった。

今までの経済活動の前提が大きく変わったといえよう。振り返ってみれば世界は21世紀に入って以降、経済成長が過熱しにくいディスインフレ時代が続いていた。米ソ冷戦終結を契機に世界経済のグローバリゼーションが進み、一体的経済活動が定着すると同時に、IT革命の進化が産業構造を抜本的な変革へと導いたんだ。

インフレと戦う中銀に過剰反応

だが、市場参加者の大半にとってインフレ前提社会は未経験。インフレ退治が最優先ミッションであるはずの中央銀行が、いざ実際にインフレ抑制に向け厳格に金融引き締めを始めるや、その姿勢に納得しきれないものを感じているんだ。だからともすると、株式市場では中央銀行がホドホドのところで利下げに転じるといった超楽観が台頭して株価水準が下支えされているし、為替市場でも金利差拡大のみを材料にドル高・円安方向に過剰反応しているように見える。

確かに今の世界的インフレはコストプッシュ型で悪性だ。そのため米国は大慌てで金融引き締めに転じ、景気維持よりもインフレファイティング優先の姿勢を明らかにして利上げを進めている。欧州も同様に大幅な利上げへと動き始めた。一方で日本では、日銀の黒田東彦総裁が金融緩和継続を明言しており、日本と米欧の極めてわかりやすい政策ベクトルの違いが円安進行の主因だ。

円安=国力衰退の反映?

国内の輸出企業にとって今回の円安は、これまでのようなメリットを享受できていない。世界的インフレを伴っていることから、原材料などの輸入に依存する仕入れコスト上昇とセットになっているからだ。おまけに米欧より経済ファンダメンタルズ(基礎的条件)が弱い日本では、最終消費者への価格転嫁が難しく、企業収益が圧迫されがち。加えてマクロ的にも資源エネルギーの大半を輸入に頼る日本経済の構造ゆえに貿易収支が悪化し、前例のない規模の貿易赤字に陥っている。もし貿易赤字がさらに拡大し、所得収支の黒字でも埋めきれずに経常赤字が定着するようなことになれば、円安は経済力低下の反映として正当化されうる。国力衰退に直結する深刻な事態となりかねない。

積立王子たる僕は、個人的には今回の行き過ぎた円安はまだそれほど心配していない。米欧のリセッション入りと日銀の金融政策転換を機に、妥当な水準へと急速に修正されるだろうと考えている。とはいえ、この先も日本の国力低下が続くなら、やはり円安が進行し日本国民は相対的に購買力を失っていくことになる。そうあってほしくはないが、長期的国力衰退と通貨弱体化への資産防衛の役割を果たすのも、外貨建て資産に積極的に投資して保有する長期国際分散投資の重要な役割なんだ。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。2006年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会副会長。積み立てによる長期投資を広く説き続け「積立王子」と呼ばれる。『預金バカ』など著書多数。
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積み立て投資には、複利効果やつみたてNISAの仕組みなど押さえておくべきポイントが多くあります。 このコラムでは「積立王子」のニックネームを持つセゾン投信会長兼CEOの中野晴啓さんが、これから資産形成を考える若い世代にむけて「長期・積立・分散」という3つの原則に沿って解説します。

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