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円安長引く負の連鎖 日銀の金融政策転換が急務に

エミン・ユルマズの未来観測

外国為替市場で円安・ドル高が加速しています。5月9日には約20年ぶりに1ドル=131円台前半まで円安が進みました。足元では「ドル買い」以上に、「円売り」が広がっています。背景にあるのは日銀の金融緩和政策です。

日銀は現在、量的緩和政策やマイナス金利政策、長短金利操作(YCC=イールドカーブ・コントロール)政策を手掛けています。YCCは、長期金利(10年物国債金利)を0%程度に誘導する目的で、2016年9月に導入されました。当初は金利の変動許容幅をプラスマイナス0.1%程度としていましたが、これを18年に拡大。21年3月に再び拡大させ、現在は変動許容幅をプラスマイナス0.25%程度としています。

金融政策の柱である量的緩和は、日銀が毎月一定額の国債を買い入れるもの。金利の大幅な上昇を防ぐことはできますが、完全にコントロールできるわけではありません。一方のYCCは、「指し値オペ」を通じて長期金利に事実上の上限を設けて堅持する政策です。

指し値オペは日銀が指定した利回りで長期国債を買い取る制度で、日銀が0.25%の水準で長期国債を全て買い入れると宣言すれば、原則として同利回りで無制限に買い取ることになります。オペの実施期間中に0.25%を超える金利で国債が市場取引されることは理論上なくなり、事実上の長期金利の上限となるのです。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、世界的にインフレ圧力が高まりました。資産の価値が目減りする中、利回りが0%に近い10年物国債を持ち続ける投資家は少ないでしょう。国債を手放す動きが増えれば、当然利回りは上昇しますから、買い手はほぼ日銀しかいない状態になります。

円の価値の希薄化が加速 

ここで重要なのは、日銀の国債購入の資金が、新たに刷られた日本円であるという点です。これは円の価値を希薄化させる負のサイクルでしかありません。新たに日本円が刷られ、発行量が増えることで、結果的に円の価値は下がり、足元の急速な円安を引き起こしているからです。

この手の金融政策は世界で過去に何度も実施され、そのたびに失敗に終わりました。有名な話がフランスの「ミシシッピ・バブル」です。スコットランド出身の実業家ジョン・ロー(のちの仏財務長官)が1700年代前半に、北米との貿易拡大を目指す「ミシシッピ会社」の経営権を握り、投資家を引きつけました。

膨大な負債を抱える政府の救済策としてミシシッピ会社の株式が売られるようになると、人気化して株価は急騰。通貨の担保になったことで株式の需要は拡大し、発行量は増加しました。同社株が新たに発行された通貨で買われ、株価がさらに上がるというスパイラルまで起きたのです。

資産価格を維持させるために「ある資産を同じ資産で買う」という政策は誤った手段です。日銀もミシシッピ・バブルと同様に、この先ずっとYCCを続けることは難しいはずです。

さらに、円安・ドル高要因の一つである「日米の金利差」を作り出しているのも、日銀の金融政策です。足元では米10年債利回りが急激に上昇していますが、米国債の保有額トップは日本です。円が急速に売られている今、日本による米国債の買い余力は弱まっています。これは米国債価格の下落(利回りの上昇)を引き起こし、日米の金利差を拡大させ、さらなる円の売りにつながっています。

これらの負の連鎖から抜け出す方法は、YCCの変動許容幅をもう一度拡大するか、YCCをストップするかしかありません。オーストラリアでは、金利上昇圧力が強まった2021年11月に、中央銀行が3年債の利回り目標撤廃を余儀なくされました。日本のYCCも限界に近づいていると思われます。ドル買いを止める方法には為替介入もありますが、根本的な円売りを止めない限り、一時的な解決にとどまるでしょう。

国内では夏の参院選を前に、自民党内でインフレを警戒する声が挙がっています。円安とインフレの同時進行は、輸入物価を押し上げ、様々なモノの価格高騰をもたらしています。可処分所得の減少は消費減退につながり、景気を大きく悪化させるでしょう。

株や実物資産投資で対応を

多くの人が経験したことのないこのインフレショックに対応するには、株式や実物資産を保有したり、ETF(上場投資信託)などの積み立てをしたりして、資産の目減りを防ぐしかありません。「お金のために働く」のではなく、「お金を自分のために働かせる」やり方を身に付けるべきです。

トルコでは通貨リラを金や外貨に替える習わしがあります。町中にジュエリーショップや両替所があるため、いつでも売買は可能です。特に2種類ある金のブレスレットが人気で、価格はインターネットでいつでも確認できます。

子供や主婦でもお小遣いが貯まると買いに行き、必要がなくなれば売るということが頻繁に行われています。結婚式や出産などの祝いの場では祝儀を渡さず、金のブレスレットやコインを渡しています。トルコでは通貨への信頼度が低いため、現金より実物資産や為替が取引されているのです。これらの「生活の知恵」により、小さい頃から資産運用は身近な存在です。

金の取引スプレッドが高い日本でトルコのように金売買が身近になることは難しいでしょうが、証券会社の口座開設は簡単にできます。新社会人や若い世代も資産運用の勉強を始めるべきでしょう。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
日経マネー 2022年6月号 波乱相場でも上がる 強い日本株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2022/4/21)
価格 : 750円(税込み)
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