大負けがない「グレアム流」株選び PBRとPERの掛け算
株式投資のレジェンドに学ぶ必勝テク(2)

編集部 前回は「バリュー(割安)株の父」と呼ばれる米国の投資家、ベンジャミン・グレアムが実践した「資産バリュー株投資」(会社の資産に比べて割安な株を購入する投資)の特色やポイントを解説していただきました。
グレアムは著名投資家、ウォーレン・バフェットの師匠としても有名なレジェンド。彼の投資法は今の日本株運用に通じるノウハウが多く、みきまるさんも自身の運用に積極的に取り入れられているそうですね。
みきまる そうなんです。彼が残した言葉の中に「安全域」という概念があります。現在の株価と、詳細な分析に基づいて算出した内在的価値との差を指します。足元の株価が内在的価値を下回っている株を買えば割安で安全なタイミングという意味で、私自身、割安株を見つけるのにとても役立っています。
彼の投資法は、ボクシングでいえばディフェンスのようなもの。しっかりガードがあり、資産を守り固めることができる。グレアム流で銘柄を選べば、勝てるかどうかは別にして、大負けすることはない。基本的に割安ですからね。ポートフォリオをグレアム流の銘柄で固めていれば、株式市場でずっと生き残れると思います。
編集部 ローリスク・ローリターンということですか。
みきまる 私のイメージだと、ローリスク・ミドルリターンくらいかもしれません。株式市場では生き残っていれさえすれば、どこかで保有株が人気化したりとチャンスは来るので、トータルでは利益が出るように思います。なので、どの投資家も最初に学ぶべきはグレアム流の投資法です。
ボクシングでいうとオフェンスだけ教える人や本は多いのですが、市場から退場しないという考え方は大原則。これをおろそかにしてはいけません。
2つの計算式
編集部 前回、グレアムが提唱した手法は「ネットネット株」と「ミックス係数」だと教わりました。ネットネット株とは、現金などの流動資産から総負債を差し引いた「正味流動資産」の3分の2よりも時価総額が小さい銘柄のことでした。この計算式にのっとって銘柄を選べば、安全域を確保できるというわけですね。

もう1つのミックス係数とは、どんなものでしょうか。
みきまる ミックス係数は「経験則から、PBR(株価純資産倍率)にPER(株価収益率)を掛け合わせたものが22.5以上であってはいけない」というもの。計算式に直すと「PBR×PER< 22.5」となります。
編集部 低PBR・低PERのお値打ち株を選べということですね。
みきまる はい。ただし、22.5未満の日本株は結構あるので、私はポートフォリオの大半をその半分の11.25未満の銘柄の中から選んでいます。さらにその半分(5.625未満)まで絞り込んでも、地方銀行株などたくさん存在します。
編集部 日本には割安株がそんなにあるんですね。計算式もシンプルなので、すぐに実践できそうです。
みきまる PBRやPERはどの証券会社のサイトからでも確認できますから、ぜひ使ってみてくださいね。私の過去の経験上、PBR×PERが5未満の銘柄で致命的な敗北を喫したことはありません。さらに言えば、2未満の場合はほぼ負けなしです。
編集部 それはすごい。
みきまる 私は株式投資の初心者に方法を教えることがあるのですが、ある投資家がユーグレナを買ったというので理由を聞いてみたんです。そしたら「テレビ番組で同社の青汁の話が出ていたから買った」と言うんですよ。ユーグレナは赤字企業なので、PERは算出できません。
私たちバリュー株投資家が、グレアムが植えた「安全域」という大きな木の陰で安心して過ごせるのは、安全域が筋道立った理論で、保有理由を明確に説明できるからだと思うんです。株価が上昇する赤字企業もゼロではありませんが、わざわざ初心者がグレアム流に逆らって、ハードルを上げてまで買う必要はないと思います。
編集部 株式市場にはPERの変動が大きい銘柄もあります。それらについてはどう考えていますか。
みきまる PERは今後1年間の利益の予想をベースにしていますから、常に変化するもの。PERが高いバイオ株の中にはミックス係数が1000を超える銘柄もあるんですよ。そのような銘柄には手を出すべきではないでしょう。
一方のPBRは会社の資産から株価水準を評価しますから、基本的にはほとんど動きません。PBRが1倍割れの銘柄は市場の評価が低いことを示しますから、PBRが0.3倍であれば、7割引きで買えることを意味します。
誰かがPERは「恋」に似ていると言っていたのを聞いたことがあります。はかなくもろく、常に揺れ動くものだからです。対するPBRは永続する「愛」。そのため、バリュー株を定義するにはPBRが一番重要なんです。
編集部 面白い例えですね!
株主優待銘柄を選ぼう
編集部 ミックス係数を現在の日本株市場に当てはめると、ミックス係数の低い銘柄にはどんな企業の株がありますか。
みきまる ネットネット株と同様、株主優待付きの銘柄と相性が良いと思います。例えば、九州・中国を地盤とするホームセンターのナフコ。ウィズコロナ時代の到来で、ホームセンターや地方のスーパーマーケット、ホームセンターなど不人気業種の株価が大きく値上がりしたことは記憶に新しいでしょう。ナフコはPBRが0.2倍台(8月下旬時点)と低く、割安さが突出しています。2019年には優待新設を発表。過去25年間、一度も赤字がない手堅い業績も評価できます。

編集部 財務状況も重要ですね。

みきまる はい。グレアムは著書『新 賢明なる投資家』の中で、銘柄選定の基準の一つに「過去10年間、赤字決算がない」ことを挙げています。私自身はこの言葉を受けて、保有銘柄全ての過去25年分の業績をチェックすることを自らに課しています。株式情報メディアの月額課金サービス「株探プレミアム」では企業業績などのデータが入っているので、活用しています。
編集部 なるほど。参考になります。
みきまる グレアムは、著書『証券分析』の中で、「平均回帰」についても語っています。「マクロ経済の観点から見ると、収益低下と競争激化の原則に照らせば、これまでの急成長のカーブは遅かれ早かれ横ばいになることは避けられない」。つまり、株価急騰は反落前の合図という皮肉な現実を言っています。
さらにグレアムは、1銘柄だけの運用は「投資に値しない」と分散投資の重要性も説いています。これらの教えは80年以上たった今も色褪せることはありません。

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2022/9/21)
価格 : 750円(税込み)
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