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転職時代の退職金管理術 カギは確定拠出年金

今から考えたい「退職金」(2)

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あなたの生涯賃金を7%押し上げるほどのインパクトがある「退職金(企業年金)」を知らないまま、20~30歳代を過ごすのはもったいない。今月のテーマはそんな退職金です。

定年退職まで勤め上げればまとまったお金がもらえるのは分かりましたが、ところで転職してしまった人はどうなるのでしょうか。

「終身雇用」より「転職経験者」が多い時代へ

戦後50年、20世紀が終わるまでの日本の雇用慣行と言えば「終身雇用」でした。ひとつの会社に定年退職まで勤め上げる考え方です。

今は、いわゆるプロパー社員(新卒入社から働く生え抜き社員)と、転職経験のある社員はどんな会社にも同居しています。

2016年末のデータになりますが、内閣府の資料によれば、50歳代後半に至って1度も退職したことのない正社員の割合は30%程度となっています(男性、初職が正社員)。女性、あるいは非正規雇用からキャリアをスタートさせた場合、同年代で10%以下となっており、今や「転職経験者のほうが多数派」の時代となっているといえます。

そんな時代に、退職金と私たちがどうつきあっていくかが問われています。

退職金、企業年金の基本は今も長期勤続モデル

退職金にはいくつかの性格があります。企業会計上は「後払いの賃金」つまり社員に対する債務とみなされますが、その金額設定においては長期勤続や会社への貢献度合いが反映されます。

例えばポイント制退職金制度を採用している場合「勤続年数に応じたポイント」「職階級など業務評価に応じたポイント」が付与されることが一般的です。

役職が高い人のほうが退職金をたくさんもらえるというのは納得でしょう。高い能力(と職責)には、高い給与と高い賞与、そして高い退職金が連動して付与されるということです。

もう一つは勤続ポイントのほうですが、こちらは役職とは関係なく、勤続年数が増えるほど付与ポイントも高まることがよくあります。入社2年目と20年目では1年あたりの獲得ポイントに差がつく考えです。

企業経営者の本音として「長く働いてきた社員にご苦労さんという気持ちで渡すのが退職金」というイメージは根強く残っています。これを制度上ルール化すると「長期勤続優遇」になります。

こうした制度設計においては、短期離職者はあまり得をしないことになります。

転職経験者の弱点は退職金が細切れになること

退職金というのは、自分で計画的に資産形成をするのが難しいので、会社が預かりまとまった大きなお金にしてくれる性格を持っています。

行動ファイナンスの知見も示しているとおり、何十年も先の老後のために今の生活を我慢し、貯金を計画的に行うことは難しいものです。

もし、老後資産形成を合理的に行うなら「入社時点から積み立て開始」「年収増に応じて積立額も増やす」「一度も解約しない」「分散投資で適切なリスクをとる」ということになりますが、個人が厳格にルールを守るのはほぼ不可能です。

「全然ためられていなかったけど、退職金のおかげで老後がなんとかなった!」という人は案外多く、会社の制度の役割が大きいことが分かります。

ところが、あなたが転職をすると、この「入社からの積立枠」はリセットされてしまいます。その時点までの退職金額で精算支給されてしまいますし、短期離職者には自己都合退職扱いということで、数割の減額ペナルティーが科せられるのが一般的です。

つまり「22歳から60歳まで、ひとつの会社に勤め上げた38年勤続」の退職金額と、「8~10年ごとに転職して4社勤めた勤続38年」の退職金額の受取額合計は、転職者のほうが少なくなってしまうのです。

もちろん退職金水準の低い会社から高い会社に転職すれば、逆転の可能性があるものの、短期離職者へのペナルティーはなかなか厳しいものがあります。退職所得控除という非課税枠も20年以上勤続した人を優遇しています。

転職はしばしばキャリアアップの選択肢として位置づけられますが、こと退職金に関しては「受取額減少」のリスクがあることを考えておく必要があります。

転職者は「自分で自分に退職金」をつくる意識を

転職をしてキャリアアップを目指す人、会社の業績悪化や倒産などによるやむを得ない転職が生じた人など、会社を何度か変えて働く場合、老後資産形成を退職金にお任せするわけにはいきません。

「退職金のことはよく分からなかったけれど、59歳になってから金額を調べたら、けっこうもらえて老後が助かった」というような結果オーライの老後資金準備にしてはいけないわけです。自分の退職金は自分で育てる、自分の退職金は自分で管理していく、という意識が必要です。

定年まで勤めた会社からもらえる退職金額、個人型確定拠出年金(iDeCo)や少額投資非課税制度(NISA)、財形年金などを活用した自助努力の合計額がどのくらいになるのか、遅くとも40歳代以降は自己管理していきたいところです。

ところで、転職を繰り返したとき、ひとつだけ強みとなる制度があります。それは確定拠出年金(DC)です。DCのいいところは会社が変わっても「持ち運び」しやすい点です。

企業型DCを会社が実施していた場合、資産は60歳まで解約することができません(限定的な解約要件があるものの、ほとんどの人が該当しない)。iDeCoに資産を引き継ぎ、受取時期まで資産運用を継続することになります。

転職した瞬間は「なんでもらえないの?」と感じるわけですが、長い目で見ると老後資産形成として機能させることの大切さが分かることでしょう。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「大人になったら知っておきたいマネーハック大全」(フォレスト出版)など。http://financialwisdom.jp

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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