CO2排出量ネットゼロへ 移行金融をリード
三菱UFJ銀行、グリーン投融で存在感

2022年11月9日、エジプトの保養地シャルムエルシェイク。第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)で三菱UFJ銀行の銭谷美幸チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO)が早くもデビューした。
「MUFGは温暖化ガス排出量ネットゼロへ、円滑な移行金融をめぐる議論をリードする。地域の特性に応じた道筋を検討し国際的に協調すべきだ」──。
彼女の経歴は多彩だ。地銀副頭取などを経て第一生命ホールディングスから三菱UFJ銀のサステナビリティー戦略の専任責任者にスカウトされたのが昨年10月。「問題の領域と課題は幅広い。知見のある専門家が必要だ」(半沢淳一頭取)
銭谷氏が発信した重要なキーワードは「(MUFGが)議論をリードする」という部分だ。人類的課題への取り組みが一筋縄でいくはずがなく、「アジアの金融代表」を自任するMUFGの危機感は強い。

今月12年を迎えた東日本大震災の惨劇。一部原発の再稼働が焦点に浮上する。足元ではウクライナ紛争をきっかけにエネルギー価格が急騰した。資源小国の日本経済・産業界にとってエネルギーの「安定調達」は国策そのものだ。欧州連合(EU)諸国のような送電の融通・接続は、地政学を踏まえれば実質不可能だ。
おのずと三菱UFJ銀が問われるのは国内外での率先垂範だ。22年には風力発電などといった再生可能エネルギーセクターに対する総額120億ドル超の投融資が評価され、「レンダー(貸し手)・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。受賞は3年連続だ。肝心の国内ではどうか。

岡山県の笠岡湾干拓地はかねて畜産業が盛ん。約1万頭の牛が飼育され牛ふん処理や臭気対策が難題だった。三菱UFJ銀は、地元企業が計画した牛ふんを原料としたバイオガス発電所建設を資金面から支援。こうした発電所建設資金にあてるグリーンローンを組成した。牛ふん原料のバイオガス発電所へのローンは国内初だ。
世界が50年のカーボンニュートラルを実現するためには、技術や金融で「大小きめ細かな"打ち手"」(半沢氏)。それが必要になる。
(NIKKEI Financial編集長 佐藤大和)
三菱UFJ銀行 半沢淳一頭取・固有の事情踏まえ戦略発信

環境問題や社会課題の解決と、経営戦略を「一体化」する。そこを突き詰めるのがMUFGの針路です。
ここまで気候変動問題への対応などの議論や規制作りを主導してきたのは欧州勢です。我々としても2050年にカーボンニュートラルの達成を目指すというゴールは同じだし異存はない。ただしそこまでに至る進め方には、エネルギー調達など各国・産業に固有の事情がある。それが110万社の顧客企業と取引がある頭取としての私の強い問題意識です。世界に向けて日本の周到な戦略を発信していかねばならない。
それが今回提示した「MUFGトランジション白書」です。企業との対話を大切にし、ダイベストメント(既存投融資の引き揚げ)ではなく、むしろ企業と温暖化ガスを円滑かつ確実に減らしていく手法を一緒に考え、金融面から後押ししたい。
例えば「日本は島国なのだから洋上風力をもっとやれ」と。しかし実際には遠浅の欧州と、深い海溝が迫る日本列島とでは事情が異なる。一方、日本企業には省エネ推進という伝統的な技術基盤がある。アジアを代表する金融機関としてつなぎ役になりたい。
そのためにはあらゆる人的資本をどう強化し活用していくかが問われる。過去の知見が足りなければ外部人材も登用するし社員のリスキリングも要る。そこに積極投資します。
変化の激しい時代です。挑戦せずに成長の機会を逃すこと自体が致命傷になりうる。だから挑んだうえでの失敗は成長へのプロセス。従来と同じやり方では我々のパーパスである「世界が進むチカラになる。」ことなど到底できませんから。

国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)を実現するために日本が取り組むべき課題とは? 日本を代表する企業の動きを追います。
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