「介入?」オンエア中の急な円高に緊迫(佐々木明子)
テレビ東京アナウンサー・佐々木明子のニュースな日々
最後のCM中、1ドル=151円から急な円高に

10月21日。あの日の報道フロアはいつになくザワザワしていた。打ち合わせやリハーサルに追われていたが、皆の視線は1ドル=150円の節目をあっけなく抜けた円安の動向に向けられていた。
報道フロアのマーケットボードは、日本円の姿を映し出していた。ゆっくりと、しかし確実に売られていく。「151円付けたぞっ」。誰かの大声が響き渡る。「この勢いだと、今日152円行くか?」「さすがに円買い介入で止めるだろう」。番組プロデューサーは、「いずれにしてもトップで扱いましょう」と、真顔で各所に指示を出していた。
その後は152円を目指しながら、一度は151円付近まで急騰。変な動きではあるが、介入ほどではなさそうだ。横目で気にしながらも、あっという間にオンエアの時間になった。若者の消費動向の話でゲストと盛り上がり、最後のCMへ。その時、為替が急に動き出した。
152円目前まで円安が進んでいたが、急にスルスルと円高に。「ええっ。これはおかしい、介入では?」「いや、今は分からない」「どうする?」「言う? 言わない?」。緊迫の中、CMが明け、後輩の田中アナが動揺しながらその数字を読み上げた。
残された時間はゲストとのトーク1分半。目の前で149円50銭、40銭、30銭。148円を付けた。これはもう間違いない。確信したものの断定はできない。「これだけ動くと介入観測が広がってもおかしくないですね」。とっさに口を突いて出た。
「市場と国家の戦い」を目撃
オンエアの最中に巨大なマネーの動きを見せつけられたのは、2008年のリーマン・ショックの大暴落や15年のチャイナ・ショックだった。数年に1度出くわすかどうかだ。しかも目撃しているのは、「市場と国家の戦い」。152円を試そうと加速する投機マネーと、それをくじこうとする国の動きだ。
介入はサプライズが大事とよくいわれる。特に今回は円買い介入だ。限界も指摘される中、目下のインフレ退治でドル高を志向する米国との関係上、何度も実施できるわけではない。最大限の効果を狙って深夜の時間帯にドカンと入れた(であろう)介入は、市場の意表を突くものだったに違いない。
オンエア後は、原田解説キャスターや後輩達と、やんややんやと介入談議。気が付けば深夜1時半を回っていた。
今も、市場と国家の戦いは続く。米景気が悪化する時までの時間稼ぎにも映る。限界に向け、日本は世界の巨大なマネーの流れに打ち勝つことができるのだろうか。
新型コロナウイルスに感染した1週間。きつい頭痛や吐き気、喉の痛みなど、フルセットの症状に苦しんだ。友人たちが送ってくれた見舞いの果物やジュースの数々。人の温かさをかみしめ、生きる意味や人のありようなどを学んだ時間だった……と言うとオーバーですかね(笑)。でも本当なんです。
「佐々木明子のニュースな日々」は、国内外の経済やマーケットの動きを伝えるテレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターを務める佐々木明子さんが、金融・経済の最前線の動きや番組制作の裏話などをつづるコラムです。
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2022/10/21)
価格 : 750円(税込み)
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