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給与口座から始める? 貯蓄から投資 

知っ得・お金のトリセツ(48)

スマホ決済のアプリアイコン

働く人のメインバンク「給与振込口座」が大きな変革期を迎えている。当初予定ではこの春にもキャッシュレス決済サービスを利用した給与振り込みが認められるはずだった。銀行口座ではなく「PayPay(ペイペイ)」や「楽天ペイ」といったスマホアプリに直接、給与が振り込まれそのまま買い物などに使えるイメージだ。業者倒産など万一の事態を危惧する労働組合の反対で遅れてはいるが、いずれは導入が見込まれる。これを機に自分の給与口座戦略を見直すのも一案だ。例えば現状でも証券口座を給与振込口座に指定することは可能。使い勝手の問題はあるにせよ、やろうと思えば給与の源流から「貯蓄から投資」を進めることだってできるのだ。

銀行口座振込は「例外」

「デジタル給与」の議論で知った人も多いと思うが、日本における給与は本来、現金払いが原則。今の主流の銀行口座振込は実はあくまで「例外」扱いだ。もとになっているのが労働基準法24条が定める「賃金支払いの5原則」。企業は労働者に対して賃金を(1)通貨で(2)直接(3)全額を(4)毎月1回以上(5)一定期日に、支払わねばならないと決められている。

ただし例外があり、代表が銀行口座。労使の合意がある場合に限り、労働者が指定する口座に振り込むことができる。正確な統計はないが、民間給与実態統計調査によれば1年間に支払われる給与総額は230兆円規模。今ではそのほとんどが銀行口座を経由して会社から個人に流れているとみられる。

もう一つの例外は…?

実は例外はもう一つある。証券総合口座だ。証券総合口座とは、普通預金と定期預金を束ねた銀行の総合口座の証券版のイメージで、投資信託や株式など証券会社が扱う金融商品を売買する時に開設する。要は投資家であれば必ず持っている口座だ。入金後は自動的に安全性の高い公社債投信、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)で運用されるので、投資家はタイミングを見て株式などを買い付ける。MRFは銀行の預金に近い性格だが元本保証ではない。

証券総合口座は1998年以降、労働基準法の施行規則に銀行預金と並んで追加されており、立て付け上は給与振込口座として利用することができるのだ。実際、過去の日経発行媒体を集めたデータベースで面白い記事を見つけた。

「『あなたの給与振込に証券総合口座を活用しませんか』。トヨタ自動車は8月1日から6万人超の従業員を対象にこんな提案を始めた。証券総合口座の入り口であるMRFに給与を振り込むわけだ。利用するのは系列証券会社、トヨタファイナンシャルサービス証券の総合口座用商品で、同じグループのトヨタアセットマネジメントが運用する」(2003年8月4日付の「日経公社債情報」より。名称は当時)

証券口座で買えるのはMRFだけ

だが、今日現在で証券口座が給与振込用に幅広く活用されているとは寡聞にして聞かない。なぜか?

「施行規則に書かれた細かい条件を当てはめていくと満たすのはMRFだけになる」(厚生労働省)ことが理由のようだ。つまり証券口座は使えるものの、本来の目的である投信や株式の取引を行う口座には給与は流せない、使えるのは待機資金の形のままのMRFだけ――。こんな現実が浮かび上がる。かつては運用面でも預金より「マシ」だったMRFだが、現状の利率は限りなく0%に近い。これではわざわざ証券口座にお金を流す意味がない。

例外的に認めておきながらその後のがんじがらめで結局は「使えない」証券口座。「貯蓄から投資」「貯蓄から資産形成」が叫ばれて久しい中、まずは給与口座としての使用感を高めてみてはどうだろう。マネー界では蓄財のイロハとして預金口座を「使う口座」と「増やす口座」に分けよう、と説くのが常道。限度額や投機性に対するチェックをした上で、給与という源流から「増やす口座」の代表(であるはずの)証券口座を活用することができれば、会社員の投資に対する感度も相当高まるはずだ。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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