世界の金需要3割増 7~9月、地金や宝飾の買いが回復

7~9月の世界の金需要が前年同期に比べて3割増えた。世界的なインフレなどを背景に、価値が消えない実物資産として地金や金の宝飾品を買う個人の動きが目立った。一方、機関投資家らはドル高や金利上昇で金の上場投資信託(ETF)からマネーを流出させており、視点の違いが浮き彫りとなった。
国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、7~9月の金の総需要は1181.5トンと、前年同期比28%増えた。
けん引したのは、主に個人が投資目的で保有する地金やコインの需要だ。世界的なインフレを背景に安全資産としての買いが目立ち、前年同期比36%増の351.1トンと1年半ぶりの高水準だった。

中国やインドの堅調な需要に加え、伸びが目立ったのはトルコだ。通貨リラ安と記録的なインフレを受け、前年同期の5倍を超える46.8トンに達した。
宝飾向けは13%多い581.7トンだった。インドでは経済活動の正常化に伴い金宝飾品需要も回復し、17%増の146.2トンと3四半期ぶりの高水準だった。中東は産油国がオイルマネーで潤い、宝飾品の購買意欲が増加。19%増の48.7トンと、四半期では新型コロナウイルスの感染が広がった2020年以降の最高水準だ。
中央銀行の買いは399.3トンと前年同期の4倍を超えた。1~9月時点ですでに1967年以降の単年購入量を上回る。中銀は長期保有が基本のため、価格の下支え要因になりやすい。
一方、落ち込んだのがETF向けだ。2四半期連続の資金流出(227.3トン)となり、流出幅は2020年以降で最大だった。米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めによる金利上昇やドル高の影響が大きい。ドルの代替投資先とされる金は、ドルの価値が上がる時には売られやすい。金には金利がつかないため、金利の上昇も金の弱材料となる。
金や貴金属市場を分析する森田アソシエイツの森田隆大氏は「一部の機関投資家はインフレよりも金利上昇を嫌気して金を売り、債券や株式、現金など他の資産にマネーを振り分けた」とみる。
足元はドル高や長期金利の上昇が一服。金の国際価格指標となるニューヨーク先物は1トロイオンス1760ドル前後と、約2カ月半ぶりの高水準にある。楽天証券の吉田哲氏は「金市場ではこれまで米国での大幅利上げなどによる逆風が強まっていたが、利上げのペースダウンが意識され始めており、今後価格が上昇に転じる可能性がある」とみる。(堀尾宗正)
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