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資源、「そこにある」薄氷の需給 脱炭素のジレンマ

原油や金属相場が夏場の急騰局面から落ち着き始めている。新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の感染増加を受け、世界の需要が再び低迷するのではないかとの見方が背景。相場が下がると忘れがちだが、薄氷を踏むかのような中長期の需給の懸念は、依然として「そこにあるリスク」だ。

石油輸出国機構(OPEC)プラスが増産に慎重だ。専門家の間でその原因が「生産余力」にあるとの見方が浮上している。国際エネルギー機関(IEA)は10月のリポートで「OPECプラスの1~3月の生産余力は日量900万バレル。来年4~6月までに400万バレルに減るうえ、中東の数カ国に集中している」と指摘した。米エネルギー情報局(EIA)のデータも余力の低下を示している。

EIAの定義では、生産余力とは30日以内に増やせる量で、世界が供給不足などに見舞われた際、取り急ぎ増産できる量のこと。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を除くと余力が減ったもようだ。OPECプラスは増産「しない」のではなく、そう簡単に「できない」のではないかとの観測を生んでいる。脱炭素に向け石油開発投資に慎重になるのはアフリカの産油国も同じだ。

OPECプラスが消費国と対立したというには、米国主導の戦略石油備蓄の放出は規模が小さいだろう。米国の放出5000万バレルは消費量の2、3日分で、しかも約6割の3200万バレルは将来、備蓄に戻す分だ。バイデン政権は国内の油田開発には慎重な一方で、家計に直結するガソリン高騰への対応を迫られている。産油国の手元に増産カードが少ないことも知っているはずだ。それでもOPEC頼みをせざるを得ないほど、打つ手がなくなっているとの見方が説得力を持ってくる。

需要面では航空の回復が顕著だ。世界の航空機を日々追跡しているフライトレーダー24によると、運航数は3月ごろからコロナ禍の2020年の水準を上回り、最近では19年の水準を上回る日もある。今後の感染拡大の程度にもよるが、現状のペースが続けば、コロナ前を完全に回復するのも時間の問題だ。

オミクロン株の感染拡大で来年1、2月ごろまで原油需要が減るという分析もある。そうだとしても、価格は一時的に下がるだろうが、底流にある供給面の懸念は解決しない。むしろ、石油会社が来年の投資計画を決める時期に価格が下がったことで、開発投資をより慎重に進める可能性がある。

産油国も消費国も手をこまねく現状を見てか、投資家は冷静に動いている。1バレル70ドル、60ドル台に下落した11月、多くの投資家はロングポジション(買い持ち)を処分し利益を確定した一方で、ショートポジション(売り持ち)も減らした。つまり、一段の下げを予想してショートを増やすのではなく、どちらに向かうか見極めるため様子見の姿勢だ。

高値圏で横ばいの続く金属にも、薄氷を踏むような需給の懸念がある。あらゆる金属の在庫が、減少に歯止めのかかりにくい状態になっている。ロンドン金属取引所(LME)の銅、アルミ、ニッケルの在庫は半年前に比べそれぞれ4~5割の水準まで低下した。

金属はどこに向かったのか。輸入量の分析などから中国との見方が有力だ。中国税関総署の統計では銅の輸入は11月まで3カ月連続で増えた。

電力不足による精錬所の休止が伝えられるなか、鉱石から製錬する分を減らし、必要な金属は輸入を増やし始めたとみられている。金属によっては銅のように来年の供給が増えるとの予想もあるが、市場には亜鉛やスズのように来年の価格見通しを引き上げる動きもある。

今回のコモディティーが連鎖して高騰する局面は、影響の裾野が広いのが特徴だ。天然ガス高騰は、まず水素を使う肥料の高騰につながった。肥料の高騰は農産物の値上げにつながる。世界銀行は11月に「肥料高は08~09年の金融危機以来の水準で、食料価格の高騰や食糧の安全保障への懸念が強まった」と警戒を表明した。天然ガスから精製するヘリウムガスも大きく影響を受けた。ヘリウムガスは今ではIT(情報技術)企業が設置するデータセンターに不可欠で、医療用にも需要が増えている。

コモディティー相場の目先の落ち着いた動きは、需給に懸念のある現実を見えにくくしがちだ。脱炭素を志向する中でも、なお深く広く資源を利用する産業社会はジレンマを抱えたままだ。

(シニアライター 山下真一)

[日経ヴェリタス2021年12月12日号]

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