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アルケゴス余波、市場が恐れる株式売却益の課税強化

米議会でアルケゴス問題関連の公聴会が開催され、関係各社の幹部を証人として招集しようとする動きが顕在化してきた。そこで、市場が最も危惧するシナリオは株式売却益への課税強化だ。

既に、バイデン大統領は選挙期間中に富裕層の株式売却益に4割程度課税する案を示してきた。そして就任後に勃発したアルケゴス問題。「富裕層マネーの暴走、手助けする投資銀行、利用されるデリバティブ金融商品」の構図は、バイデン政権の金融規制強化を後押しする。

まずは、問題視されている「ファミリーオフィス」(富裕層の自己資産管理会社)に情報開示義務が課せられる可能性がある。実は、「株式スワップ」の利用者などについては、アルケゴス問題なくしても、今年から来年にかけて金融規制改革法(ドッド・フランク法)の適用範囲内として情報公開などが規制強化されそうだとの報道もある。

同法は約10年前に立法化されたが、トランプ政権の規制緩和路線のなかで米証券取引委員会(SEC)が実質的に骨抜きされ、実行が大幅に遅れていたのだ。仮に規制が強化されれば、ファミリーオフィスはヘッジファンドと同じ扱いになり、四半期ごとに13Fという様式の保有銘柄報告書でSECに報告を求められる。

各ファンドの13Fは、四半期の最終日から45日以内に提出され、SECのネット上で公開される。ちなみにバフェット氏のバークシャー・ハザウェイも、この規則にのっとり四半期ごとに保有株式銘柄と保有量・保有額を開示している。ファミリーオフィスに適用が遅れたのは、「財産管理会社で運用は保守的」と見なされていたからであろう。

富裕層の資産保有状況を明らかにしたうえで、バイデン政権は「富める者から中間層への所得再配分」に動く。株式売買益への課税は、この延長線上に位置する。ここでは、年収いくらからを富裕層とみなすか、線引きも問題となろう。一般的には年収40万ドル(4千万円超)がめどとみられるが、民主党と共和党の駆け引き材料にもなっている。

市場がさらに危惧するのは、今回使われた「株式スワップ」というデリバティブ商品への規制だ。当該商品に限定せず、デリバティブという範囲に対する規制強化に発展する可能性もある。特に、「オプション」がやり玉に挙がると、影響は大きい。そもそもオプションは一定の手数料を払えば損失を限定できる、という投資家保護の発想で開発された。しかし、今や手数料を払えば、実質的にレバレッジ(てこ)をかけて売買できる投機的商品となってしまった。今年話題になったオンライン掲示板「レディット」の個人投資家の売買でも、オプションが利用された。

半導体が産業のコメとすれば、オプションは現代金融のコメといえるほど、様々な金融商品の「部品」として使われている。オプションなしで投資銀行業務は成り立たないといっても過言ではない。かりに、ここに規制のメスが入れば、市場の流動性は悪化する。

原油市場が典型だが、ドッド・フランク法で売買規制が強化され、大手投資銀行が相次いで原油トレーディング部門を縮小・閉鎖したことで、リスクをとるディーラーが減り、価格乱高下が激化する結果になってしまった。規制が強化されると高いボラティリティー(変動率)が常態化しかねない。

しかし、バイデン大統領は、お構いなしの姿勢だ。ウォール街のエリート集団とは距離を保ち、中間層を重視する。株価を政権の通信簿として重視したトランプ前大統領との対比が鮮明である。

投資銀行業務への規制が強化される可能性もある。多くの大手投資銀行はリスクが大きいトレーディング部門から、安定的収益が見込める富裕層ビジネスへ注力しようと戦略を転換中である。そのさなかに起こったアルケゴス問題は、「痛い」の一言であろう。規制強化でトレーディング部門のリスクは更に大きくなり、当て込んでいた富裕層マネーは内向きになる。クレディ・スイスは富裕層業務を得意分野にしていたので、ダメージは大きい。日本勢も個人顧客の高齢化に伴い、国際業務への依存度が高まるなか、試練の時期を迎える。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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