IPOの公募価格 投資家の需要を積み上げ決定
キソから!投資アカデミー 株式㉖
取引所による審査を経て企業の上場が承認されると、株式の公開(公募・売り出し)価格を決めることになります。この価格はどのように決まるのでしょうか。
公募価格や売り出し価格の決め方には、市場の需要を積み上げていくかたちで決める「ブックビルディング方式」と、投資家が一定期間に希望価格を入札した結果に基づいて決める「入札方式」の2種類があります。現在はブックビルディング方式が主流です。ここではブックビルディング方式を説明します。

ブックビルディング方式では、主幹事の証券会社などによって「想定発行価格」が決まり、想定発行価格に大口の機関投資家の意見を加味して「仮条件」の価格帯が決まり、仮条件の範囲で一般の投資家の需要(購入意向)を積み上げて「公開価格」が決まるというプロセスをたどります。
まず上場承認の1〜2週前に主幹事証券が目論見書などに載せる「想定発行価格」を決めます。既に上場している同業他社の株価収益率(PER)を参考に算出するケースが多いです。
最終損益が赤字であったり、事業内容が独特で類似の上場企業がなかったりする場合などは、この方法では算出できません。この場合、企業が将来にわたって得られる現金(利益)の合計を金利を使って現在価値に換算したディスカウントキャッシュフロー(DCF)を使うことが多くなります。将来得られる現金やその将来時点の金利の予測は難しいため、担当アナリストの意見を参考にします。
DCFを上場時点での発行済み株式数で割って、企業価値に対する株価を算出します。想定発行価格はこうして算出した値から20〜30%ほど割り引いた価格になることが多いです。証券会社が引き受けた株式を売却しやすいよう、投資家に割安感を与えるためです。
次に「仮条件」です。上場が承認された後は、上場する企業のトップや上場準備担当者が機関投資家に対し説明会を開いたり、個別訪問をしたりします。これを「ロードショー」と呼びます。約10営業日をかけ、多ければ50社程度を訪ねます。
機関投資家は、目論見書で企業の事業内容などをつかみ、ロードショーの際の面談で社長の資質をみて企業の価値を判断し、想定発行価格に対する意見を述べます。主幹事証券はこの意見を参考に、上場する企業と協議して「仮条件」の価格帯を決定。売り出しを担当する幹事証券がサイトなどで投資家に提示します。募集中に市場が変動するリスクを考慮して、仮条件には一定の幅を持たせます。
その後、約5営業日の「ブックビルディング」期間があります。この期間に各証券会社が投資家から需要申告を受け付け、主幹事が集計します。仮条件に対する購入意向の程度や市場環境などを総合的に分析し、投資家に販売する「公開価格」を決めます。公開価格の発表後、最終的な購入申込期間が4営業日程度設けられ、上場日を迎えます。
企業が市場から調達する資金額は、この公開価格と公開株式数の掛け算によって決まります。企業は調達した資金の一部を手数料として幹事証券に支払います。手数料率は企業の規模や上場する市場によって異なりますが、一般に6〜7%といわれています。
企業は調達額をなるべく多くしたければ多くの新株を発行します。ただ、多くの新株を発行して新しい株主が増えると、創業経営者など上場前から保有する株主の議決権が薄まります。公開株式数は企業の経営に影響が大きいため、市場の需要を踏まえる公開価格の決まり方に比べると、企業側の裁量に委ねられる傾向が強いようです。