有望株探しは生活者視点で 海外で伸びる銘柄も選好
スゴ腕ファンドマネジャーの銘柄選定術(下)

「運用チームの銘柄選びの会議では、買い物や食事、週末の過ごし方などの雑談に1時間は使う」

こう明かすのは、りそなアセットマネジメントでファンドマネジャーを務める井浦広樹さんだ。雑談に時間を割くのは、自分たちが日々の生活の中で感じた変化が銘柄選びに結び付くからだ。連想ゲームのように、雑談を通して市場でまだテーマになっていない社会の変化を浮かび上がらせる。
チームで運用しているアクティブ型の投資信託「りそな日本中小型株式ファンド」では、こうして察知した新たなトレンドの兆しの中から、社会の構造変化や課題という裏付けがあるものに絞って関連の銘柄を探す。社会の構造変化や課題に裏打ちされたトレンドを捉えた企業は、景気や為替などの外部環境の影響に左右されることなく業績を拡大していくことが多いからである。
海外成長の恩恵がポイント
「今後、経済の中心が第2次産業から第3次産業へ移行していくことを見据えた時に大きな期待が持てるのは、海外で人気のある日本の観光資源やコンテンツだ」と井浦さんは指摘する。

実際にりそな日本中小型株式ファンドのパフォーマンスに昨年最も寄与したのは、特撮ヒーローの「ウルトラマン」シリーズの知的財産(IP)を保有する円谷フィールズホールディングスだった。
「タイでの版権を巡る訴訟に勝って海外の収益権を全面的に獲得できたのが大きい。ウルトラマンは中国や東南アジアで人気が非常に高く、利益が一気に20億〜40億円の単位で増えている」(井浦さん)
少子高齢化で経済成長率が低い日本の企業から成長企業の株を見つけ出すには、円谷フィールズのように海外で事業を拡大しているか否かが重要な着眼点になる。
主に国内で事業を展開する企業の株でも、同様に海外の経済成長の恩恵を享受しているかどうかがポイントになる。例えばインバウンド(訪日外国人)関連。インバウンドが復活して経済成長が著しい国の人々の来日が増えれば、関連銘柄の業績拡大は再加速する。
その有力候補の一つとして組み入れているのが、企業などから業務のアウトソーシングを受託しているヒト・コミュニケーションズ・ホールディングスだ。空港でのPCR検査の実施と陽性者のホテルへの案内からイベントのボランティアの指揮、国際会議で来日する有識者たちの通訳や観光案内まで、インバウンドに関連する人材をチームで派遣する事業モデルで成長している。
「地方自治体との関係も強い。インバウンドが復活すれば、オペレーションに長けている彼らのサービスはさらに拡大が見込める」
一方、ウクライナ危機などのリスク要因とは無縁の銘柄を選ぶのも有効とみて注力する。例えば、再生医療向けにへその緒や胎盤に含まれる「さい帯血」を保管する事業でほぼ寡占状態にあるステムセル研究所。「再生医療の進化でさい帯血の需要が拡大すれば、著しい成長になる」と期待して組み入れている。
りそなアセットマネジメント株式運用部/チーフ・ファンド・マネジャー。2005年りそな信託銀行(現りそなアセットマネジメント)に入行。株式アナリスト業務に従事し、2008年より小型株ファンドマネジャーを務める。
(ライター 上田ミカコ)
[日経マネー2023年4月号の記事を再構成]
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