購入対象は小型株に限定 成長市場の銘柄から絞り込む
スゴ腕ファンドマネジャーの銘柄選定術(上)


「日本の経済成長率は1%前後で日経平均株価の上昇率がそれから大きく乖離することはない。日本経済を上回るファンダメンタルズ(基礎的条件)を持つ企業の株に投資すれば、インデックス(株価指数)に勝つことは十分可能だ」
こう話すのは、国内運用大手のアセットマネジメントOneの看板投資信託「企業価値成長小型株ファンド」を運用する関口智信さんだ。グラフを手にして説明を続ける。
下のグラフは、ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成したものだ。グラフの期間は2012年末〜22年末。TOPIX(東証株価指数)を構成する銘柄の中から、10年前から旧東証1部に上場した銘柄を抽出した。赤色は、株価が2倍以上になった銘柄の分布を示す。

「日本経済は低成長だが、価格が10年で2倍以上になった株は858銘柄もある。こうした銘柄を選べば、リターンの高いポートフォリオを組める」(関口さん)
5つの成長テーマに注目
企業価値が大きく高まり、価格も大きく上昇する株の多くは時価総額の小さい小型株だ。前出の企業価値成長小型株ファンドは、えりすぐりの小型株60銘柄を組み入れて好成績を維持する。
銘柄選びでも重視しているのは、中長期で企業の価値や利益の拡大を見込めるかどうかだ。社会のニーズや経営方針、企業風土などを総合的に判断し、短期の材料は考慮しないという。

だが、小型株の数は3000銘柄を超えている。アナリストのカバーが非常に少ないため、情報を得にくいという難点もある。「その企業の事業が成長市場に所属しているのかどうかが重要なポイントになる」と関口さんは語る。
関口さんが注目する主なテーマは5つ。それぞれに関連する小型株を丁寧に探す。例えば、「脱炭素」では電気自動車(EV)の普及に伴って需要が高まる部品関連の銘柄を丹念に見ている。
そうした中で目を付けた銘柄が、バッテリーや電子部品の性能を評価する測定器を製造するHIOKIだ。「部品の生産が増えれば、測定器の需要も高まる。電子機器は熱対策が重要なため、熱対策を得意とする部品メーカーも有望な投資対象だ」(関口さん)
経営指標はROICを重視
企業の分析で関口さんが重視している経営指標の一つがROIC(投下資本利益率)。株式市場や融資で調達した資金をいかに効率的に使って利益を上げているかを判定する指標で、税引き後営業利益を自己資本と有利子負債の合計で割って100を掛けて算出する。「ROICが高いほど企業のバランスシート(貸借対照表)は改善する。次の成長に向けた投資も早く行え、資金調達を減らせる」(関口さん)
利益は増加の勢いよりも安定性を優先する。理想は毎年20〜30%の伸び率を維持する企業の株だ。「安定して利益が伸びる企業は将来の利益を織り込みやすく、株価にも反映されやすくなる」と関口さんは指摘する。
アセットマネジメントOne・運用本部株式運用グループ・国内株式担当ファンドマネジャー。1988年新和光投信委託(現アセットマネジメントOne)入社。日本株のアナリスト業務などを経て、2005年から日本株の投資信託の運用に携わり、同社の「企業価値成長小型株ファンド(通称:眼力)」などを担当する。
(ライター 上田ミカコ)
[日経マネー2023年4月号の記事を再構成]
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