取引額が急増する一点ものNFT 数十億円の高値付く例も
紙幣や硬貨に取って代わる? お金の未来最前線(下)

国内外でNFT(Non-Fungible Token)アートの取引が活発になっている。米投資銀行ジェフリーズはNFTの市場規模について、2022年に350億ドル(約4兆5500億円)以上、25年に800億ドル(約10兆4000億円)以上と予想する。NFTの応用分野は音楽やゲーム、映画、ファッションなど幅広く、今後ますます関心が高まりそうだ。
NFTとは「鑑定書や所有証明書付きのデジタルデータ」のこと。暗号資産(仮想通貨)の基盤技術になっているブロックチェーン(分散型台帳)を活用し、作者や所有者情報、取引履歴などを管理する。美術品などとひも付けることによって、権利の所在を明確化し、唯一無二の「一点もの」の証明が可能とされている。偽造がほぼ不可能な点が特徴だ。
これまでデジタルデータは改ざんが容易で、海賊版や違法コピー作品が横行していた。著作権は存在するものの、「自分がこの作品の唯一の所有者である」と証明することができなかったからだ。コピーとの違いを明確にできず、「本物」に価値を持たせることは困難とされてきた。
昨年から高額取引が活発に
NFTが本格的に注目を浴びるようになったのは昨年3月から。デジタルアート作家の「ビープル」として知られるマイク・ウィンケルマン氏が13年半にわたって製作した「エブリーデイズ:最初の5000日間」がオークションにかけられ、約6930万ドル(約90億円)で落札。同月には、米ツイッターの共同創業者、ジャック・ドーシー氏が2006年3月21日に投稿した初ツイートが競売にかけられ、約291万ドル(約3億7830万円)で落札された。

いずれも壁に掛けて鑑賞するような「形のある作品」ではなく、画像ファイルの状態で出品されたデータやインターネット上の無形資産だ。それらが高額で取引されるようになったことでNFTの価値は高まった。作品を生み出すアーティストにとっても複製されることがない上、2次販売においても作成者に報酬が支払われることなどから、収入源として関心が高まっていった。
ビジネスへの活用も
NFTはアート作品にとどまらず、音楽やゲーム、ファッションなど様々な分野で応用されている。NFTを使ったビジネスで先手を打つのは海外のスポーツ用品メーカーやアパレルだ。米ナイキは21年にデジタルスニーカーを販売するスタートアップを買収。同業の独アディダスや伊高級ブランドのグッチなども参入した。

国内では楽天グループやLINEがNFTを販売するマーケットプレイスを開始。エンターテインメント分野では、松竹が歌舞伎の動画の一部のNFTコンテンツを販売したり、芸能人がNFT作品を手掛けたりし始めている。
暗号資産交換業のFXコインの大西知生社長が期待を寄せるのは、急速に広がる仮想空間「メタバース」への活用だ。「利用者は、メタバース上でNFT作品を展示・販売したり、NFTの『土地』を買って、イベントなどを開催したりできる」(大西氏)。NFTは、特定の管理者を通さず自由に売買できることから「ポテンシャルに終着点はない」(同業の楽天ウォレットの松田康生シニアアナリスト)との声は多い。
NFT価格は乱高下続く
NFT市場が順調に拡大する中、価格はボラティリティー(変動率)が高い状況が続いている。NFTの「一点もの」の証明に高い価値を見いだすのは一部のコレクターが中心。ブロックチェーン上を離れれば、インターネット上では似たような商品が出回っていて、高値を付ける人は少ない。また昨年の高額取引は、作品の取引に使用される仮想通貨の価格が世界的な金融緩和を背景に高騰した影響が大きい。現に足元では、投機筋の資金が流出して、NFT価格が乱高下している。
先述のツイッター創業者の初ツイートを購入した起業家シーナ・エスタビ氏は、同NFTを再出品したが、入札価格は足元で購入価格の約100分の1にとどまっている。投機目的で安易に飛び付くのは注意したいところだ。
(井沢ひとみ)
[日経マネー2022年7月号の記事を再構成]
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