/

「インベスト・イン・バイデン」ではないNISA拡充策を

積立王子への道(54)

投資の世界で「積立王子」のニックネームを持つ筆者が、これから長期投資に乗り出す後輩の若者にむけて成功の秘訣を伝授するコラムです。

つみたてNISAは一般NISAの反省からスタート

一般NISAと呼ばれる少額投資非課税制度が長期資産形成のための制度として定着できなかったのは、まず非課税投資期間が中途半端な長さになってしまったのが一因だ。金融庁は10年で法制化したかったのだが、政府税制調査会の抵抗が大きく半分の5年になってしまった。そして個別株式が投資対象に含まれていることもあり、証券会社の中には一発勝負的な投機的行動に誘導するところもあった。

そうした反省を踏まえ2018年に「つみたてNISA」が新たに発足した。マーケットの短期的な値動きや景気循環を乗り越え、長期投資が合理的な資産成長をもたらす必要十分な時間軸として、それまで前例のなかった20年という非課税期間が実現した。同時に金融庁は、最適な投資対象は世界の経済成長を長期的リターンの源泉とする国際分散投資であるとの考え方を積極的に示してきた。

国際分散投資の〝推奨〟は割り切った判断だった

本来ならば国内資本市場の活性化につながる日本株への投資をあえて勧奨しなかったのは、世界経済の成長軌道からみた日本経済の成長力が大いに劣後していたためだ。生活者の財産形成を最優先に考えたとき、政策当局としてもいわば「割り切った判断」をしたわけだね。そんな金融庁の熱意も通じてか「老後2000万円不足問題」を契機に現役世代を中心に、つみたてNISAが普及し始めている。2人みたいに真剣に将来を見据えて積み立て投資を続ける若者も決して珍しくなくなった。

ところが新型コロナウイルス禍を経て、特に顕著になったのが米国経済の強さと米株式市場の目覚ましい上昇トレンドに対する、日本経済の停滞ぶりと日本株市場の弱さというコントラストだ。IT革命で世界を席巻したビッグビジネスの中でも「GAFAM」と呼ばれるテック系巨大企業がけん引して、米国の株価は上昇を続けた。これを見て日本でも米国株市場への投資がはやりとなり、ネット証券では代表的米株式インデックス「S&P500」への積み立て投資が主流になっている。

「ブーム」はいつか終わり調整が始まる

根拠は過去数年のパフォーマンスだ。日本の個人投資家はこれまでも足元で人気があって上昇している市場やセクターなどに投資資金を集中させてしまう傾向が強かった。流行に乗った「テーマ型ファンド」は常に売れ筋投信の上位だが、それらが長期的に優れた運用成果を持続した例はまれだ。今回の米国株投信ブームも、今年に入ってからは金融環境の変化を背景に割高な米テック系成長株が軒並み大きく価格調整を強いられている。日本人の高値づかみ安値売りという歴史的トラウマが再現されることが懸念される。

キャピタルフライトも心配だ

それよりもっと心配なのは、日本人が米国株を中核とする海外資産一辺倒に投資資金を偏重させれば、やがては「キャピタルフライト」(資産逃避)につながりかねない資金フローが定着するという事態だ。

そもそも政府が国民に「貯蓄から投資へ」を促すにあたっては、日本の資本市場に集まった資金が国内産業へと向かい、事業拡大に弾みがつくことで経済成長軌道を取り戻すことこそが国益にかなうはずだ。つみたてNISAの普及策では当初、そこに目をつぶってきたことが今の米国市場一辺倒の投資ブームへとつながった。今回の「インベスト・イン・キシダ」政策における「資産所得倍増プラン」ではこうした反省も踏まえる必要がある。今の米国株ブームのまま政策を推し進めても「インベスト・イン・バイデン」で終わりかねない。次回は「資産所得倍増プラン」で日本の株式市場を活性化させるための課題について論じるとしよう。

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。2006年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会副会長。積み立てによる長期投資を広く説き続け「積立王子」と呼ばれる。『預金バカ』など著書多数

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

積み立て投資には、複利効果やつみたてNISAの仕組みなど押さえておくべきポイントが多くあります。 このコラムでは「積立王子」のニックネームを持つセゾン投信会長兼CEOの中野晴啓さんが、これから資産形成を考える若い世代にむけて「長期・積立・分散」という3つの原則に沿って解説します。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン