インフレ前提社会で広がる優勝劣敗
積立王子への道(70)

侵略後1年、世界は大きく変わった
ロシアがウクライナ侵攻を始めて間もなく1年がたつ。軍事大国ロシアに対して規模で劣るウクライナが徹底抗戦を続けられている最大の理由は西側諸国からの武器供与だ。最新鋭兵器の提供で対等以上の対ロシア防衛が可能になっている。どちらも「負けない」「負けられない」と思っている限り、残念だが戦闘は終わらない。一段の長期化を覚悟せざるを得ないだろう。
しかし今回の加害者、ロシアは世界から「ならず者国家」のレッテルを貼られた。将来戦闘が終わっても西側先進諸国の経済制裁は続く。日米欧諸国が「脱ロシア」を前提に経済構造を再構築していけば、必然的にロシアの国力は今後顕著に衰退へと向かう。とりわけロシア貿易の主力である資源エネルギー分野では世界的な潮流である脱炭素化の動きも底流にあるわけで、化石燃料の使用ベースそのものが縮小する中で脱ロシアが進められることになる。恒常的なエネルギー不足は不可避であり、産業活動の基盤たるエネルギー需給の逼迫は、地球規模で相応のインフレ前提社会へのパラダイムシフトをもたらすだろう。
分断が育むインフレの芽
ロシアが「ならず者国家」になったことは、超大国である中国の覇権主義体制への警戒をいやが上にも高め、米中対立の構図が一段とクローズアップされることになった。いわば「西側民主主義陣営」vs「中ロ覇権主義陣営」というコントラストだ。さらにどちらにもくみしないいくつかの新興国もあり、世界は多様で複雑に絡み合いながらも再び分断へと向かっている。地球一体型の経済活動(グローバリゼーション)の下では事業展開の最適化・合理化を通じたコスト抑制がディスインフレ経済の基盤となった。それが逆回転し始めているわけで、これも地球規模でのインフレ前提社会への圧力となるだろう。
インフレは必ずしも悪いことじゃない
米ソ冷戦終結以降、グローバリゼーションが進むなかディスインフレ経済が長く続いたこともあり、世間には過剰なインフレ恐怖症も見受けられる。だが今のようなインフレは米欧金融当局による引き締め策の影響で、景気減速やリセッション(景気後退)入りまで意識される過程で鈍化していくはずだ。そして若い君たちには、インフレとは必ずしも怖いものではなく、適度なインフレはマクロ経済の成長を安定的に持続させるためのベストコンディションであることも知っておいてほしい。
金融緩和が終わり選別が始まる
インフレ前提社会への転換が長期投資にもたらす影響について考えてみよう。リーマン・ショック以降、米欧日の先進諸国がこぞって十数年にわたり続けてきた超金融緩和政策が終わった。中銀が市中へ大量に供給した資金は過剰流動性を生み、余ったマネーは株式市場に流れ込んで株価を押し上げた。これがインフレ前提社会に転換すればどうなるか?
市場全体をあまねく右肩上がりに押し上げた余剰マネーが逆回転を始めれば、選別が始まる。市場平均並みの成績を目指すインデックス運用が優位だった時代の終わりだ。過剰流動性の解消に伴い、インフレ経済を克服する強い企業と、その力が弱い企業との間に大きな業績格差が生まれ、株価の峻別(しゅんべつ)が起こる。製品やサービスに高い競争力を持つ企業は、インフレでも業績を維持し、さらに伸ばしていけるが、その力のない企業は売り上げを維持できず業績の落ち込みを余儀なくされる。企業の優勝劣敗は各社の株価動向に如実に反映されることになる。
選択眼が問われる時代がくる
そうした環境下では、強い企業を的確に厳選する本格的アクティブ運用の投資信託が市場平均を上回る場面が大いに増えてくるだろう。本来資産運用の要諦は銘柄選択であり、その選別力こそが運用者のプロフェッショナルたる原点だ。将来に向けた長期資産形成の成果を委ねる生活者長期投資家にとっても、優良な運用者を選別することの重要性が一層高まる時代になるだろう。

積み立て投資には、複利効果やつみたてNISAの仕組みなど押さえておくべきポイントが多くあります。 このコラムでは「積立王子」のニックネームを持つセゾン投信会長兼CEOの中野晴啓さんが、これから資産形成を考える若い世代にむけて「長期・積立・分散」という3つの原則に沿って解説します。