円、20年ぶり安値を更新 一時132円台に下落

7日の東京外国為替市場で円が対ドルで下落し、一時1ドル=132円台と2002年4月以来およそ20年2カ月ぶりの円安・ドル高水準を更新した。5月9日に付けた1ドル=131円35銭の直近安値を超えて円安・ドル高が進んだ。米国ではインフレ抑制のために金融引き締めが加速するという見方が強まる一方、日本は日銀が大規模緩和を続ける姿勢を鮮明にしている。日米の金利差の拡大が円安要因になっている。
鈴木俊一財務相は7日の閣議後の記者会見で、円安について「急速な変動は望ましくない」と述べた。「為替市場の動向や日本経済への影響を緊張感を持って注視する」と強調した。日銀の黒田東彦総裁は7日の参院財政金融委員会で「強力な金融緩和を粘り強く続ける」と発言し、市場では日米の金利差拡大が意識された。黒田総裁は「家計や地方の中小サービス産業に対するマイナスの影響を十分に考慮しなければならない」とも指摘した。
5月の米雇用統計では非農業部門の雇用者数が前月から39万人増え、市場予想(32万8000人)を上回った。失業率は横ばいの3.6%で「完全雇用」の状況に近いとされる水準を維持しており、労働需給の逼迫が鮮明となっている。
FRBが景気への配慮をせずにハイペースで利上げを進めるとの見方が強まり、米長期金利が3%を超えて上昇。3%超えは3週間ぶりで、日米金利差の拡大を手掛かりにドルを買って円を売る投資家が増えている。

足元で続く原油高も円安・ドル高要因だ。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の先物価格(期近)は1バレル120ドル近辺で推移しており、3月上旬以来、ほぼ3カ月ぶりの高水準だ。
エネルギーを輸入に頼る日本では輸入業者がドルを手当てする必要があり、原油高の局面では貿易赤字が膨らみやすい。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は「実需筋は高いと思ってもドルを買わざるを得ない」といい、ドル高要因となっている。
これらのドル買い需要に対し、市場で円安抑止の効果が期待されているのがインバウンド(訪日外国人)の受け入れ再開だ。外国人が日本に来て買い物をすると円買いの需要が発生するためだ。
もっとも政府は1日の入国者数の上限を2万人に設定し、当初は添乗員付きのパッケージツアーしか認めない。みずほ銀行の唐鎌大輔氏によると、上限2万人で稼ぐことができる旅行収支の黒字は1カ月分の貿易赤字を相殺するものでしかないという。
円安を修正するには日銀の大規模緩和政策の見直し、原子力発電所の再稼働推進、インバウンドの全面解禁などが市場関係者から指摘される。しかしどれも政治面などのハードルが高く、すぐに実現する可能性は低い。当面は円安基調が続きそうだとの見方が多い。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)
関連企業・業界