3メガバンクトップ 金融の未来語る
金融ニッポン トップ・シンポジウム詳報

3メガバンクと2大証券のトップが金融の役割を議論する「金融ニッポン」トップ・シンポジウム(日本経済新聞社主催)が4日、開かれた。シンポジウムの初開催から10年、安倍晋三政権によるアベノミクスが始まって10年の節目となり「銀行・証券が創る未来」をテーマに議論した。3メガバンクのトップが金融の未来について語った。
「デジタル活用、豊かな生活」
これからの30年は人々の価値観やライフスタイルがデジタル化の進展や気候変動などを背景に非連続で変化していく。足元ではデフレからインフレへ、低金利から金利上昇へ、グローバリゼーションからディグローバリゼーションへと長期的なトレンドがパラダイムシフトを起こしている。
これからは旧来のしがらみにとらわれずに、自ら新たな未来を切り開くことができるとも言える。これからの30年間は「幸せな成長の時代」にしたい。キーワードは社会的価値だ。

サステナビリティーが幸せな成長の実現に不可欠な要素だと考えている。4月には100人を超えるサステナビリティー本部を設立した。グループ一体で銀行、証券、リース、コンサルティングなど顧客のサステナビリティーに関するニーズに対応したソリューションを提供している。
例えば、デジタル技術を活用した温暖化ガスの排出量算定ツールを開発した。デジタルサービスによって脱炭素に向けた課題を見える化したうえで、削減計画を策定し、実行にあたっては必要な資金のファイナンスや排出削減量などのコンサルティング、開示の高度化という観点でソリューションを提供する。
デジタル技術を活用して便利でお得、豊かな生活の実現にも取り組んでいる。三井住友銀行スマホアプリは専門のデザイナーのチームを組成し、デザインや使いやすさを重視した。「Vポイント」では振込手数料の割引や投資信託の買い付け、他のポイントとの交換などを可能にした。
プラットフォームの黒子として金融機能の提供にも注力している。ユニクロペイは決済業務を三井住友銀行が担っている。デジタル関連子会社が提供するスマホアプリを使ったコンビニ支払いの仕組みは、ゾゾタウンなど多くの後払い決済サービスに利用されている。異業種とも連携しながら、サービスを開発することが価値の創造につながると考えている。
「新興3600社、技術革新を支援」
2021年のみずほ銀行における一連のシステム障害で顧客と社会の皆様に大変なご迷惑とご心配をかけた。2月の就任以来、システム障害の防止と障害が発生した場合でも顧客への影響を最小限に食い止めるため、業務継続プランを策定した。引き続き業務の安定運営に努めていきたい。
「共創」をキーワードに明るい未来をつくるための取り組みについて紹介したい。みずほの原点は渋沢栄一が創設した第一国立銀行、安田善次郎が創設した安田銀行、中山素平が戦後の産業発展に力を尽くした日本興業銀行の3つにある。顧客や社会と議論を交わしながら、行動するというDNAがある。未来に向けて大きな山、これを一歩一歩登っていくためには、知恵を出し合いながら共創するということが極めて重要だ。ここにみずほの役割もあるんだろうと感じている。

1989年(平元年)一橋大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほ証券で役員を務め、海外経験も豊富。システム障害に伴う経営体制の刷新で22年2月から現職。57歳
革新的な技術を金融面から支援していきたい。様々な形で実証実験が展開されることが予想される。プロジェクトにも銀行が一緒にリスクを取るということで出資枠をつくっている。エネルギー関連、ケミカルリサイクル、バイオなど様々なものが出てきている。
スマート農業ではグループ子会社のデータサイエンスの能力を使って、産学連携のコンソーシアムに参画してコンサル業務をやっている。長年の勘でやっていたものを人工知能(AI)で効率化して持続可能な農業をつくるのが目標だ。
技術革新では新興企業と大企業をともに支援していく。「M's Salon」という会員組織をつくり、そこに3600社以上が参画している。新興企業については資金面での支援から上場まで提供していく。
デジタルではメタバースにも取り組みを広げた。現場社員が自発的に出したアイデアが起点になっているが、8月に世界最大のバーチャルリアリティーイベントに出展した。社員発のアイデアを大事にして、トライアルを重ねていきたい。
「脱炭素、企業の施策を発信」
時代の変わり目にあたり、グローバリゼーションは転機を迎えている。当社を取り巻く環境も大きく変わるなか、昨年4月に「世界が進むチカラになる。」というパーパスを定めた。
変化の時代に生き残るには時代への認識を持ち、変化を見極める力が必要だ。いまは分散化と多様化の時代。デジタルであらゆるものがデータ化され、誰もがアクセスできるようにもなっている。一人ひとりが自律的に判断して行動することが極めて重要だが、バラバラになってもいけない。よりどころとなる軸がパーパスだ。

1986年(昭61年)東大院修了、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。20年4月から現職。米国駐在後、16年からデジタル戦略の責任者を務めた。60歳
企業文化の変革やデジタルトランスフォーメーション(DX)に加え、力を入れて取り組むのがサステナビリティー(持続可能性)経営だ。すでに石炭火力発電所向けのコーポレートファイナンスを2040年までに残高をゼロにする目標などを公表した。目標の達成には脱炭素に向けたお客様への支援が重要となる。30年度までに累計35兆円のサステナブルファイナンスをお手伝いする目標も掲げている。
カーボンニュートラルの実現に向け、国際的なルール作りに参画していくことが重要だ。国際組織「ネットゼロ・バンキング・アライアンス」(NZBA)に邦銀として初めて加盟し、アジアを代表するメンバーとして運営をけん引している。
今年9月には「トランジション白書」を公表した。日本は地理的な制約や社会・政治的な要因により、欧米と同じ方法ではカーボンニュートラルを実現できない可能性がある。脱炭素に向けた日系企業の取り組みやエネルギー政策を取り巻く環境の違いをまとめ、欧米など海外の政策立案者に意見の発信を進めていく。
デジタル化が典型例だが、新型コロナウイルスの流行で5年後の未来が一気に来たような進み方をしている。5年を先食いしたから今後の変化がスローダウンするのではない。気候変動への対応や働き方は加速度的に変わっていくのではないだろうか。