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管理職候補生こそ多様性を 投資家や企業統治指針が圧力 

SDGsが変えるミライ

企業に対し女性などダイバーシティー(多様性)確保を求める圧力が一段と強まっている。企業価値の向上につながるとして、投資家に加え、6月に改定したコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が企業に社員の多様性を求めているためだ。対象も取締役会だけでなく、管理職やそれらの候補生まで広がる。企業にとって対応は待ったなしだ。

日産化学は25日の株主総会に向け、元検事で日東工業の社外取締役も務める中央大学法科大学院の中川深雪教授を取締役候補にした。女性候補は今回が初になる。「専門性と法曹会での豊富な経験を経営に生かしてもらう」(同社)のが狙いだ。日揮ホールディングスも初の女性取締役候補として、朝日ネットの社外取締役などを務めるTMI総合法律事務所の八尾紀子弁護士を挙げた。

TAKARA&COMPANY傘下の宝印刷によると、日経平均株価を構成する3月期決算企業187社のうち、昨年は女性取締役がゼロだったが、今年初めて女性候補を提案した会社は日産化学など14社ある。今年の総会で可決されれば女性取締役のいる会社は計170社に増える見通しだ。

女性取締役のいない企業は17社だが「早期に選任したいと考えている」(コムシスホールディングス)、「選任を前向きに検討している」(三井E&Sホールディングス)と話すなど、今後も採用が広がっていきそうだ。

SDGs意識調査に参加する

女性取締役の拡大の一因は投資家の圧力だ。内閣府が2020年度に実施した「ジェンダー投資に関する調査研究」では回答した資産運用会社など128社のうち、55%が投資判断のすべてまたは一部に女性活躍情報を活用しているとした。

女性取締役のいない企業の経営トップなどの選任に反対票を投じる運用会社も増えている。米アライアンス・バーンスタインは日本で21年の株主総会から、女性取締役がおらず任命しようとしない企業のトップに反対する。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)も主要500社を対象に今年から上位3人の経営陣に反対する。

多様性確保の圧力は6月の企業統治指針の改定でさらに強まりそうだ。企業統治指針は上場企業に企業価値の向上を求めるための行動指針。管理職や中核人材でも多様性の確保の考え方や測定可能な目標を示し、開示することを求めている。

「女性取締役の適任者がいない」と嘆く企業は多いが、社内での人材育成不足にも原因がある。男女共同参画白書によると、民間企業の役職者に占める女性の比率は階級が上がるほど低下している。20年時点で係長級は21.3%、課長級も11.5%だが、部長級は8.5%にとどまる。上場企業では女性取締役が徐々に増えているものの、社外取締役が中心で社内からの登用は限定的だ。

こうした点を意識して女性登用を進める企業もある。たとえば、SOMPOホールディングス傘下の損保ジャパンでは20年度から部長が後任を育成する際、必ず女性を入れる取り組みを開始。これまで女性が少なかった本社の企画部門への登用を進めるなどし、20年7月時点で20.6%だった女性管理職比率が21年4月時点で25.7%になった。

女性活躍が叫ばれる中、働く女性自身はどう感じているのだろう。

社員口コミサイト運営のオープンワーク(東京・渋谷)によると、口コミサイトで企業で働く従業員が自社の働きやすさや働きがいを5点満点で評価したところ(約1万社が対象)、20年に女性平均が3.054点と17年比で0.073ポイント改善している。

同社によると14年に約45時間だった企業の平均残業時間は20年に約25時間まで減った。オープンワークの大沢陽樹社長は「残業時間が減るなどし環境面・体力面においても女性が長期キャリアを目指しやすくなった」と分析する。

個別企業の評価を見てみると、女性による総合評価の改善が大きかった企業は日本調剤日本航空コニカミノルタなどだ。

日本調剤は、薬剤師を中心に従業員の7割が女性で「産休・育休はとりやすい」「時短で働ける」「近くの店舗から応援を呼べるので、子供の体調不良で早退しやすい」という口コミが多い。他方、「上位職は男性が圧倒的に多い」との声もある。

日本調剤は女性従業員の口コミ評価が改善している

日本調剤は「エリアマネジャー職および管理部門課長職以上に占める女性の人数を30人以上」と具体的な数値目標を掲げ、女性の登用を進めている。

企業に対してESG(環境・社会・企業統治)関連のコンサルティングをする非営利団体BSR東京事務所の永井朝子マネジング・ディレクターは「グローバルで人材獲得競争が加速している。優秀な人材の獲得や新事業の創出などには、女性をはじめとする多様な人材の確保と実力を発揮できる社内の仕組みが欠かせない」と話す。多様性の確保は今後、企業の競争力をますます左右することになりそうだ。

女性活用で時価総額500億円増 ESG「見える化」必須

エーザイの柳CFO

ESG(環境・社会・企業統治)の取り組みは企業価値とどう結びつくのか――。エーザイの柳良平最高財務責任者(CFO)は、自社の88種類のESG指標とPBR(株価純資産倍率)の関係を分析。ESGの取り組みが5~10年後の企業価値向上につながることを示した。柳CFOに取り組みの狙いや効果を聞いた。

――どのような分析をしたのですか。

「88種類のESG指標の変化が何年後のPBRと関連するかを調べた。たとえば、ダイバーシティー関連では女性管理職比率や障害者の雇用率などを用いた。その結果、女性管理職を1割増やすと7年後にPBRが2.4%、時価総額で500億円の増加につながるとわかった」

「女性管理職の登用が企業価値を生むと数値で示せた。ESGと企業価値の詳細な開示は一企業の取り組みとしては世界初と言われる。もちろん女性管理職の数と時価総額の正確な因果関係は分からないが、実際の女性が活躍したストーリーを合わせて説明する」

「ESGの取り組みの効果は長期で表れることを示せたのも大きい。たとえば、女性管理職をきょう増やしたからといって、きょうの株価が上がるわけではない。研修制度やサポート体制も含めて長期にわたり構築する必要がある」

――なぜこの分析をしたのですか。

「年200件ほど投資家と面談するが、特に海外投資家から企業価値につながるESGを定量的に説明してほしいという声が非常に多い。収益力の高い欧米企業は不足していたESGの取り組みを説明すればよい。他方、欧米ほど財務重視が徹底されていなかった日本企業はESGと収益の両方を重視するよう求められている」

「日本企業は今、過小評価されていると思う。人も環境も大事にする日本企業のESGの潜在価値は大きい。先進国のPBRは2倍程度だが、日本企業は平均1倍強。ESGを定量化して財務に結びつけて説明できれば日本企業の価値はほぼ倍増すると信じている」

――分析の効果はありましたか。

「研究の前後では投資家の反応が全然違う。特にESGに関心の高い投資家に納得してもらいやすくなった。海外投資家は愛情を持って『柳モデル』と呼び、米ブラックロックやウエリントン・マネージメントなど名前を出して応援すると言う投資家もいる。ESG投資家のエーザイに対する総投資額が増えているという実感もある」

「もともとエーザイは従業員が大事だと言っていたが、やや曖昧な掛け声だった。だが、多様性や人材が価値を生むとCFOが数字で示したことで、モチベーションが上がっている」

――多様性に関連し、女性登用が進んでいる企業ほど業績がよいという研究もある。

「研究論文は多数あるが、統計学的に立証するのは極めて難しい。ただ、人口の半分を占める女性の能力を生かせないことは社会的な損失だ。さらに外国人や中途採用者なども含めて多様性を尊重する文化があれば、新しいアイデアが生まれ企業が活性化していく。これを企業の経営トップが意識し、社内に浸透させることが日本企業にとっては欠かせない」

「SDGsが変えるミライ」
BSテレビ東京は日経スペシャルとして、6月20日(日)午後9時から特番『SDGsが変えるミライ~小谷真生子の地球大調査~』を放送します。本コーナーは放送に合わせ、SDGs関連記事をピックアップし、お届けいたします。

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