確認しよう住まいの保険とハザードマップ
知っ得・お金のトリセツ(55)

3日に静岡県熱海市で発生した大規模な土石流は自然災害列島に住む恐ろしさを印象づけた。一人でも多い無事を祈るばかりだが、教訓を生かし、せめてできることとして万一の場合に支えになる保険の加入状況を確認しておこう。
住まいの被害をカバーする火災保険
生命保険や医療保険など「もしも」に備える保険の中でも、住まいに対する補償を担当するのは主に火災保険だ。地震保険もあるが、東日本大震災後に認知度が高まった通り、単独では入れず火災保険の土台を作った上でセットで入る。政府と民間が共同で運営しており、どの保険会社で加入しても保険料や補償内容に差はない。
一方の火災保険。「火災」の文字のイメージが強いが他にも風、洪水、雪、ひょう、落雷から、盗難や家に自動車が突っ込んできたような人災まで守備範囲は広い。それぞれの原因で家屋や家財が損害を受けた場合に保険金が支払われるが、漠然と「火災保険に入っている」とは認識していても、実際にどの災害でどこまでカバーされるかは契約次第。思わぬ抜け穴もあり得るので要確認だ。
例えば今回の熱海のように雨が原因の土砂災害は火災保険の中の水災補償の対象になるが、地震に起因する土砂崩れであれば地震保険の守備範囲だし、地質が原因の崩落など火災・地震、どちらの保険によってもカバーされない事態もありうる。
水災補償の付帯率は7割程度
災害自体は水災補償の対象でも、実際に補償が受けられるかは契約したプラン次第だ。最初から水災補償がプランに含まれている契約もあれば、なしのプランもある。さらにもともと付いている補償を「節約目的で外す契約者も最近は特に多い」(損保代理店)という。水災補償の付帯率は全国で7割程度にとどまる。
「ええっ、付いてない!? ホントに?」。思わず電話口で詰問口調になってしまったが、筆者も保険証書を片手に「お客様サービスセンター」で確認したところ、まさに水災補償が付いていなかった。ただし建物本体部分と家財部分に分かれて2本で契約しているうちの家財部分についてだ。火災保険は建物と家財と分けて入る場合も多いのでこういうことも起こりうる。
保険料は値上がり続く 更新も短期間に
「なんでわざわざ分けたの?」と聞くべき相手は過去の自分なわけだが、そういえばうっすらとした記憶がある。35年間の長期契約の建物本体に対して、家財の方は家族構成などによって対象が変わるので、見直しを前提に当座の保険料節約を優先した気がする。保険料は当然、カバー対象が広く、契約が長期にわたるほど金額がかさむ――、そんなセオリーに従って「節約」した覚えがある。
なんせ15年以上前のこと。だが、この間、日本では自然災害が多発し保険料もジリ高に。火災保険などの保険料は損害保険料率算出機構が公表する「参考純率」を目安に決められるが、機構は6月、平均1割強の参考純率引き上げを発表した。過去4年で3度目の値上げで上げ幅は過去最大だ。2022年度以降の契約者負担増に跳ね返る。しかも契約期間についても現在の最長10年から5年へと短縮されるという。今思えば最初から長め、かつ包括的に火災保険を掛けていた方が正解だったわけだ。
ハザードマップのチェックは新しい常識に
仕方がない。常識は変わる。一方で新たな常識になったものに「ハザードマップ」のチェックがある。洪水など災害が起きた場合、危険が高いと思われる場所を地図上で図示したもので自治体などが発表しているほか、国土交通省のハザードマップポータルサイト(https://disaportal.gsi.go.jp/)の「重ねるハザードマップ」も一覧性があって使いやすい。自宅の住所を入力すると、洪水や津波など複数の災害に対応した周辺の想定被害が色分けされて図示される。昨年からは不動産取引時の重要事項説明において説明義務が不動産会社に課されるようになった大切な情報だ。
ハザードマップで確認した上、さらに鉄筋コンクリートの高層マンションなどであれば、火災保険のスリム化を検討する手はなきにしもあらずだ。ただ、その場合も一度、保険の基本に立ち戻って考えてみよう。保険が底力を発揮するのは「発生確率は低いが、起きると損害が甚大なケース」だ。自然災害はまさにこれに当てはまる。年せいぜい数万円の節約で安心が毀損しないか、慎重な検討が必要だ。

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