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アルケゴス、ノムラが「逃げ遅れた」真の理由は?

コロナ禍のイースター休暇。大半の市場が休場だが、在宅勤務慣れした市場関係者の間では普段と変わらぬ会話が交わされた。話題はやはり「アルケゴス」。日々、新たな実態が明るみに出てきている。

まず、「NOMURA」(現地では野村銀行と呼ばれる)が、米ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーに出し抜かれ、アルケゴス保有銘柄売却に出遅れた理由が取り沙汰されている。

アルケゴスのホワン氏は、2012年にインサイダー事件が発覚して米証券取引委員会(SEC)からヘッジファンド業務の停止処分などを受けた。その後、NOMURAはホワン氏との取引を行った。「罪は償った。熱心なクリスチャンで投資収益の一部は寄付している。暮らしぶりも質素に見える」ゆえ、本社も最終的には了承したとの説が市場関係者からもれ伝わる。

リーマン・ブラザーズの一部門を買収して、ニューヨーク市場で投資業務拡大を戦略的に重要視した同社だが、投資銀行ランキングでは後じんを拝していた。そこで取引に踏み切ったようだ。アルケゴスは現地のNOMURAにとって重要顧客の一社となっていった。

ゴールドマンがアルケゴスとの取引を再開したのはごく最近とされる。最終的には高額手数料の恩恵を無視できなかったとみえる。ゴールドマンが動けば他社も追随する。こうなるとホワン氏は、手数料目当ての投資銀行を競わせ、担保率引き下げを要求したという。

ホワン氏がヘッジファンドのアジア株担当者であった頃から現場で人的関係を構築したとされるNOMURAは、見切りの決断が遅れた。一方で、アルケゴス関連では米系大手金融機関の担保差し押さえ、当該銘柄売却の決断は早かった。

次のNY市場の関心は、金融監督当局の調査対象だ。ここでは「利害の相克」の可能性が指摘される。

今回の騒動の発端は、アルケゴス関連の主要銘柄であるバイアコムCBSが増資を発表したことによる株価の急落だ。同社株の担保価値は大幅に毀損。ゴールドマンが真っ先に巨額相対取引で売却処分に走ったことであった。

そのバイアコムCBS増資の目論見書を見ると、主幹事会社として、ゴールドマン、そしてモルガン・スタンレー、JPモルガン、シティグループ、そしてMIZUHOの社名が明記されているのだ。

さらに、副幹事会社として、日系では「MUFG」「SMBC Nikko」の社名も含まれている。なお、ここにはNOMURAの名前は無い。

NY市場の関心は、ゴールドマンの引受部門が、果たして、バイアコムCBS社の実質筆頭株主はアルケゴスであったことを了解・了承していたのか、ということだ。「スワップ取引」と「ファミリーオフィス」という二重の隠れみのでアルケゴス社の存在、そして資産運用関連情報は一切表に出ていない。では、社内のアルケゴス担当部門と情報交換はあったのか。

結果的には、ゴールドマンが主幹事役であるバイアコムCBS増資の発表後、ゴールドマン自身が担保として保有していた大量のバイアコムCBS社株を見切り売却した。増資新株を購入した一般投資家も巻き込まれた。金融監督当局も重大な関心を持たざるを得ない状況である。そして、目論見書に名前が出た日系大手の関与の実態も今後明らかになろう。

5日は午前に日経平均が3万円台を回復した。この世界的な過剰流動性相場の「影」の部分が、アルケゴスという「シャドー(影の)ヘッジファンド」の一件で明るみに出たと言えそうだ。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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