/

米国市場で「おまけ、割引」優待は効かない

3日の米株式市場では前日に続き、個人投資家の共闘買い再燃が話題になった。今回の主たる標的は映画館大手のAMCエンターテインメント・ホールディングス株だ。1日の値動きも、一時は37ドル台にまで売り込まれたかと思えば、68ドル台まで買い戻される場面もあり、結局51ドル台で引けた。まさにジェットコースター相場。年初来の上昇率は優に2000%を超える。この超高値圏でAMC社は増資に動いた。一方、ヘッジファンドのマドリック・キャピタル・インベストメントが大量購入。高値で売り抜けた、と外電は報じている。

この増資にあたり、AMC側は米証券取引委員会(SEC)へのファイリングで、「当社の株価は、社業とは無関係の市場環境を映している。ボラティリティーが激しく、投資家は損失をかぶるリスクがある」とまで異例の「リスク情報開示」を行った。

同社は新型コロナウイルス禍に直撃され昨年は破綻の危機にあったが、今回の「神風」で、破綻回避どころか、新規事業への投資資金まで確保できる結果となっている。

前回のレディットマネーの乱は、空売りヘッジファンド対個人投資家共闘買いの構図であったが、今回は両陣営とも買いと売りが交錯する乱戦模様だ。ただ、個人投資家がオプションを多用してレバレッジをかける手法は変わらない。満期日が数日後に迫り、権利行使価格(ストライク・プライス)が実勢より大幅に乖離(かいり)するオプションの価格は安いので、特にレディット投資家軍団のお好みだ。そのような、俗に言われる「ポンカス・オプション」でも、1日の株価変動が激しいので、翌日には実勢価格圏内に入るかもしれない。「宝くじ」感覚で当たる可能性はある。

レディット画面でも、大儲けを自慢するエキサイティングな書き込みや、大損を嘆くヒステリックな表現があふれる。筆者もレディットのなかのウォールストリート・ベッツに登録して書き込んでみたが、確認のため画面をアップデートしたとき、既に3ページ目に落ちていた。

総じて、この異常な市場現象をマクロ的に見れば、フロス(泡)にすぎない。ユニークな話題性が先行している感が強い。

敢えて言えば、ウォールストリート・ベッツのなかには、まともなプロの意見も書き込まれ、参考となることもある。しかも無料である。

対して、ヘッジファンドは一流ホテルで開催される投資コンファレンスで様々な投資戦略を語り、高額の参加料を払った機関投資家が聞き入る。

とはいえ、共闘買い軍団は、殆どファンダメンタルズ(企業業績、マクロ経済環境)を無視して、ひたすらモメンタムを追う。FOMO(自分だけが取り残される恐怖感)に駆られる個人も少なくない。このような個人投資家に対して、AMC側は、無料ポップコーン配布や入場料割引などの「株主優待」を提供した。しかし、デイ(日計り)・トレードどころかミニット(分単位)・トレードとまで言われる投機手法ゆえ、優待には殆ど無関心だ。ウォール街のトークでも「優待」は話題になっていない。メディアが面白がってポップコーンのイラストを流す程度である。「優待」は日本で特に人気がある「株式投資」なのだ。

なおAMC株は、ラッセル小型株指数に含まれ、ETFにも組み込まれているので、レディット・マネーと一線を画す一般個人投資家も、意図せざる参入となることも指摘されている。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

日経電子版マネー「豊島逸夫の金のつぶやき」でおなじみの筆者による日経マネームック最新刊です。

この書籍を購入する(ヘルプ):Amazon

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン