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消えゆく106万円の壁 女性に必要な「越える」意識

知っ得・お金のトリセツ(77)

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3月8日の国際女性デーにちなみ、日本女性の現状を考えるクイズをひとつ。

Q 働き方を考える際、多くの女性が意識するいわゆる収入の「壁」はいくつある?

答えは「6つ」。100万円、103万円、106万円、130万円、150万円、201万円だ。「そんなにあるの?」と思うが、配偶者(今回は大勢にあわせ「夫」とする)の扶養の範囲内で働くのと外れるのとでは、同じ時間働いても世帯の手取りの仕上がりが変わってくるだけに無視できない。現場では壁を意識しつつ働き方を決めている人が多いのが現実だ。

最初に現れる2つの壁は税金。収入が100万円・103万円を超えると住民税・所得税の納税義務が生じる(住民税は自治体によって微妙に差異がある)。税金は超過部分にかかるので「かえって損」状態ではないが、要注意なのが会社から出る扶養手当が連動する場合。カットされれば手取りに響く。

次いで真ん中の2つが社会保険料の壁。社会保険上の壁は、うっかり越えようものなら「かえって損」状態を招くと多くのパート主婦が意識する一線だ。年収130万円の壁内であれば被扶養者として、夫の会社を通じて公的年金とそれとセットになった健康保険に追加保険料負担なしで加入できる。ただ、月額賃金8.8万円(年換算約106万円)以上の収入で一定の条件に当てはまると、自ら保険料を負担して厚生年金に入る義務が生じる。それが106万円の壁だ。そして最後の2つ、150万円・201万円はそこを超えると配偶者特別控除が減額され、夫の税金負担が増加する一線だ。

扶養の制度に男女の区別はないが、実際自ら保険料を負担しない第3号被保険者の98%が女性。現実として「夫の扶養の範囲で働く」意識は日本女性の間で根強い。では次の質問。

Q 今年低くなることで扶養内でなくなる人が増えるのは、どの壁?

低くなるとは基準が変わることで、自分では壁の内の扶養の範囲にとどまるつもりでも周囲に壁がなくなるイメージ。答えは106万円の壁だ。2022年10月以降、働き方は変えなくても働き先の会社の「くくり」が変わることで厚生年金保険制度に加入することになる。これまで一定の条件下で加入義務があった会社は、従業員501人以上の比較的大規模な会社だった。これが10月からは「101人以上」に引き下げられる。

同じ勤め先に同じように働いていても、年金・健康・介護の保険料負担が生じることで、例えば月収8万8000円なら月1万3000円強の手取り減となる。新型コロナウイルス禍や原油高が家計を襲う折、百円単位で節約を心がける主婦には大打撃だ。保険料負担を避けるには契約上の所定労働時間を週20時間未満に抑えるか、従業員数100人以下の企業に移るしかない。だが後者の逃げ道は早晩ふさがれる。2年後には「51人以上」への人数基準引き下げが既に決まっている。約65万人が新たに厚生年金制度に組み込まれる見通しで、「壁」の中に身を潜める選択肢はなくなりつつある。

女性たちよ 「増やせよ年金」

どうするか? 望ましいのは手取り減という目先のピンチを将来のチャンスに変える発想転換だ。育児などで今、扶養内で働きたい事情は分かる。だが家族の形は変わり「女の一生」はその後も続く。今年40歳の女性の4人に1人が到達すると見込まれる年齢は105歳にもなる。終身もらえる公的年金は長生きリスクへの最大の備えだ。支払う厚生年金の保険料と受給額の費用対効果をはじくと、計算上およそ17年で「モトを取れる」ことになる。それ以外に「もしも」に備える障害厚生年金や健康保険の傷病手当受給などの安心もついてくる。

かつて「命短し」とうたわれた乙女の命は長い。「恋せよ」が終わったら(終わる必要は必ずしもないが……)「増やせよ年金」の時代だ。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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