3度目の過ちは許されぬパウエル氏、苦渋の決断
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、痛恨の判断ミスを既に2回犯した。まず、今回のインフレについて、当初は「一過性」とかたくなに主張したこと。2021年11月になって、やっと「一過性」との判断を撤回した。しかし、本格的インフレを認めながら、22年3月までゼロ金利と量的緩和継続という超緩和策は維持した。これが2つ目の判断ミスだ。この5カ月の移行期間に、インフレのマグマが市場の底流として膨張したので、パウエル氏にしてみれば、悔やんでも悔やみきれない思いではないか。結局、インフレ対応は後手に回り、4回連続0.75%利上げという「劇薬」を処方するに至った。
市場は、3回目のミスは許されぬというパウエル議長のトラウマを感じ取っていた。それゆえ、インフレ減速傾向が明らかになった今、利上げの出口という、これまた難題に関して、パウエル氏が苦渋の選択を強いられていることを冷ややかに見守ってきた。利上げ打ち止めが早すぎれば、インフレ再燃リスク。遅きに失すれば、利上げ不況のリスク。そこで、パウエル氏は、あえて後者より前者のリスクを重視と明言した。インフレは、手を緩めるとぶり返す習性があるからだ。それゆえ、一定のリセッションは覚悟のうえで、政策金利は5%超まで利上げ継続のスタンスをとった。
思い起こせば、22年8月のジャクソンホール中央銀行フォーラムでは、強硬利上げ継続論を8分間まくしたて、質疑応答もなく降壇した。市場は、トラウマを背負い焦るFRB議長の胸の内を垣間見た。その後、市場内ではにわかに引き締め過ぎリスクが意識され、利上げも5%には届かぬ水準で停止を余儀なくされるとの見解が主流となった。さらに、利上げ不況対応で、年内利下げへの転換もあり得るとの予測が台頭した。
このような市場環境のなかで、23年初の米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催された。市場の最大関心事は、パウエル議長が年内利下げの可能性に言及するか否か。これは、23年のマクロ市場展望に大きな影響を与える重大事項だ。
結果は、「現状では、利下げは適当ではないが、インフレ率下落ペースが速まれば、それなりの政策対応も考える」とのご託宣。
12月FOMC議事要旨には「23年利下げを考えるFOMC参加者は1人もいない」と強い表現で記されていただけに、今回、年内利下げを完全否定しなかったことだけで、市場はざわめいている。
果たして、利上げは、どこまで高く、どれほど長く続くのか。FOMC内部では、5%超の金利水準を場合によっては年越しで24年まで維持するとの意見もあった。来週には、FRB高官講演などで、FOMC内の見解の相違もあらわになりそうだ。
まずは、今晩発表の雇用統計で月次新規雇用者数が10万人台まで下がれば、労働市場過熱も一服の可能性も見えてくる。とはいえ、失業率が3.5%から悪化しないと、利上げ強硬論が蒸し返されよう。平均時給(賃金)の伸びの減速傾向も気になる。
パウエル氏が、利下げ、利上げ、いずれもあり得ると両論併記を語ったことで、市場の不透明感はさらに強まる結果になっている。

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