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厚生年金加入 負担増より給付増に目を向けて

正しく年金を理解する(1)

今月のテーマは「正しく年金を理解する」です。とはいえ、あまり構えずに「テキトーに理解する」という感じに捉えてください。テキトーとは「いいかげん」という意味合いではありません。むしろ辞書の本来の意味に近い「適当」、つまり「ある状態や目的などに、ほどよくあてはまること」(広辞苑)のほうです。

年金制度は複雑であり、経過措置がたくさんあります。これは個人の人生と制度全体の過去と未来を連続させなければいけないので避けられないことです。仮にシンプルで抜本的な改革をしたとしても、これから20歳になる人以外は複雑な経過措置に巻き込まれることになるでしょう。

だとすれば全てを理解することは社会保険労務士や官僚に任せて、ひとりひとりは基本的なところを「適当」に理解することが重要です。

今週まず考えてみたいのは「パートへの厚生年金適用」です。

パートにも厚生年金加入を義務づける改正が前進

よく「正社員」「パートやアルバイト、契約社員」「派遣社員」のように働く人を区別します。誰が給料を払うか、クビにされやすいかどうか、退職金がもらえるかどうか、社会保険の対象となるかどうかなどの違いがあります。

待遇に大きな違いがあるのはやはり正社員かパートか、の違いです。正社員はいきなりクビにされにくく、退職金をもらえ(制度がある場合ですが)、社会保険の対象となるというのが一般的な「線引き」です。

健康保険制度は配偶者が社会保険に加入していれば扶養家族となることもできますが、個人なら健康保険料を自分で負担しなければなりませんし、年金については国民年金分しかもらえません(会社員や公務員の被扶養配偶者なら保険料なし、おひとりさまなどは国民年金保険料を納める)。

2022年10月より、パートであってもフルタイムに近い状況であれば社会保険の適用を求める改正が前進しています。

・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上
・2カ月を超える雇用の見込みがある(継続して働いている)
※ただし学生は除く

上の条件に当てはまれば、就業規則上の正社員でなくても社会保険の対象となります。大企業中心(従業員数501人以上)に適用されていたルールがこの10月から従業員数101人以上の企業まで広がります。再来年10月には51人以上の企業まで範囲が拡大する予定です。

この報道、「負担増」のほうにばかり注目が集まっているように見えます。

負担増は給付増と同じであること忘れずに

確かに適用対象となった場合、個人と会社それぞれが社会保険料を負担しなければなりません。健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料を合計すると大きな負担です。

まず、この問題は「負担増」というよりは「今までは負担を免れていた」と考える視点が必要です。「パートだから会社が社会保険負担を免れる」という理屈がそもそもおかしく、非正規雇用は「例外的な働き方である」ような時代のルールが、多くの人が働く時代になっても用いられてきました。

今まで健康保険料が無料だったのではなく、「被保険者の健康保険組合(配偶者以外の社員全員)がその分を負担していた」といえますし、今まで国民年金保険料が無料だったのではなく「厚生年金制度全体で、独身者や共働き夫婦の保険料から負担してもらっていた」といえます。自分の分を自分で負担する形に戻ったと考えるとこれは単なる負担増というより、負担の適正化でもあります。

また、負担増は給付増でもあります。厚生労働省の社会保険適用拡大についての特設サイトでは、厚生年金に加入することにより「老齢厚生年金(老後に給付)、障害厚生年金(障害が残ったときに給付)、遺族厚生年金(遺族に給付)」の給付が受けられること、健康保険制度では出産手当金(産休期間中に給与の3分の2相当を支給)、傷病手当金(病気療養時に給与の3分の2を支給)などの給付拡大があることを説明しています。

月収8.8万円の場合のモデルでは、厚生年金保険料負担が月8100円(本人負担分)で、20年加入すると国民年金(老齢基礎年金)に加えて老齢厚生年金が年10万8300円増額されるとしており、2022年度の国民年金保険料は月1万6590円ですから独身者で国民年金制度に加入していた人はむしろお得になります。

厚生年金は報酬比例で保険料が増えるごとに給付も増えますので、年収が200万円、300万円と高い人は厚生年金額も増えていきます。

今まではむしろ「負担ゼロ」であったこと、そして「給付増」にもなることに目を向けてみてください。

扶養の範囲にとどまらず、しっかり働く選択へ

今回の社会保険適用の拡大や配偶者控除の税制上の見直しは、「年収X万円の壁」を気にして「仕事をゆるめる」ような理由を外していく試みでもあります。

本来は高い能力が発揮できる人が、扶養や社会保険適用の範囲にとどまるために縮こまって働いているのは、個人にとっても社会にとっても、もったいないことです。

昔、ブラックジョークで「12月にはゴルフ場にキャディーさんがいない」というものがありました。女性のパート先のひとつであるキャディーさんが、「10X万円の壁」のようなものを気にして、12月になると勤務日を調整し始めたところ、年末が近づくと誰もいなくなった、というものです。

働く能力のある人は能力を発揮して、例えば年収240万円(月20万円)以上を稼ぐようになれば、社会保険の負担増以上に手取りは増えますし、将来の給付も増えます。正社員に転換できれば退職金も加わり、人生の生涯収入はさらにアップします。

勤務時間の融通が利くことをパートを選ぶ理由としている人も少なくないと思いますが、実は正社員でも勤務の自由度が高まっています。

正社員という働き方も変わりつつあります。古い常識にとらわれず、自分の能力を発揮することを第一に考え、その次に社会保険料負担を意識するようにしてみてはどうでしょうか。

厚生年金加入は老後の安心づくりのカギ

私たちの老後の安心を考えるとき、「厚生年金に入っているかどうか」がもっとも大きな分岐点になります。国民年金だけでは満額で年77万8千円と十分ではなく上積みが欠かせないからです。

特におひとりさまにとってはここが死活問題といってもよく、社会保険の適用拡大は長期的には老後の安心づくりにプラスになるといえます。負担増は給付増でもあります。

ひとりでも多くの人が厚生年金に加入し、老後の定期収入を増やすことができるよう、今回の適用拡大をしっかり実行し、さらに前進していくことが大切なのです。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp
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