マネープランにも多様性 パーソナライズの時代へ - 日本経済新聞
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マネープランにも多様性 パーソナライズの時代へ

マネープランをパーソナライズ(1)

今月のテーマは「パーソナライズ」です。お金の基本について学ぼうとするとき、汎用的な教科書のようなものから学ぶのが重要だと思ってしまいがちです。しかし、マネープランは本質的に個人ごとに異なるものです。そして近年、その違いはさらに広がりを見せつつあります。

テンプレートなライフプランは「世代」で語る

マネープランについて考えるとき、最初に目にするのは「テンプレート」的情報です。

・20歳代前半で社会人になる
→アラサーで結婚する
→子どもが誕生する
→アラフォーで住宅ローンを組む
→アラフィフは子の学費負担と住宅ローン返済に追われる
→定年年齢でリタイアする(今なら65歳まで継続雇用も)
→公的年金と退職金を軸に老後をやりくりする

このように、「世代」を軸にしてマネープランのテーマを考えるイメージです。

「家計のやりくり術(節約術)」「貯蓄や投資の基本」「住宅ローンの賢い利用方法や物件選び」「保険の加入」などのお金の知識の「基本」を学ぶ情報はたくさん発信されています。

確かに、基本を学ぶことは大切ですし、なんらかのテンプレートは必要なものです。

どんなに多様性が増した社会であっても、人数としては中核を占める多数派のような人たちは存在します。統計を取れば、平均は必ず存在するからです。普通であることは恥じる必要はありませんし、そこから理解を始めることもまた重要なことです。

しかし、一歩理解を深めていくとき、重要になってくるのは「テンプレートに自分を合わせる必要はない」ということです。むしろテンプレートの理解をしたあと、一歩進めて「自分にとって最適化されたマネープランを持つ」という意識が必要です。

子どもの年齢15歳差でまったく異なる人生

私は50歳になりましたが、わが家の子どもは小1と小3です。私と同年齢の友人のファイナンシャルプランナー(FP、女性)には2人の子どもがいますが子育てはもう終了し、ふたりとも社会人です。子どもの年齢差はなんと15歳。

私がSNS(交流サイト)で下の娘の七五三の話題を披露する一方で、友人は社会人になって家を出た子どもと久しぶりにお酒を飲んだ話を投稿しています。

同年齢のふたりですが、SNSだけではなくマネープランも大違いです。私は下の娘が大学を卒業するのが65歳なので、まだ15年間先まで学費がかかり続けることになります。友人のほうは、というと学費負担も住宅ローンも肩の荷が下り、すでに悠々自適という雰囲気です。もちろん数年前までは大きな負担に苦労があったはずです。

「結婚して子どもが産まれる」といういかにも標準的なライフプランであっても、時間軸の違いだけで、必要な対策はまったく違ってくることになります。

結婚や出産のタイミングが10年以上ズレることは今や珍しいことではありません。これこそまさに、今の時代のライフプラン、マネープランがパーソナライズする必要を示しています。

結婚、出産、キャリア 多様性が尊重される時代へ

私たちの人生において、ひとりひとりの多様性が尊重されることはとても重要なことです。時代によって、こうした偏見や因習は変化してきています。

何度か掲載媒体を変えながら、連載を続けている「Papa told me」という名作マンガをご存じでしょうか。1987年にスタートした本作は、35年以上にわたって連載されおり、様々な社会テーマを取り上げてきました。

初期には主人公である女の子の叔母さんが女性のキャリアや、独身でいることへの社会的偏見などの葛藤に苦しむエピソードがあります。近年では、親の離婚に翻弄される子どもや、学習障害や適応障害と向き合うテーマなどが取り上げられていたり、高齢者の生き方のような話も出てきたりします。

長期連載を改めて振り返ってみると、社会の生きづらさはいつの時代も消えることはないということを改めて感じさせられます。主人公の女の子や登場人物たちは一切年を取らない不思議な世界であることが、時代の変化をより際立たせてくれます。

それでも、こうした多様性に対する社会的な尊重は、徐々に深まっていることも読み取れます。

連載初期に独身女性としてキャリアを積む叔母さんへの風当たりは徐々に薄れ、女性がおひとりさまの人生を選ぶことや女性が正社員として働くことへの違和感はなくなりました。

私たちは一歩ずつ、少しずつであっても、ひとりひとりの人生が違ってもいいのだ、ということを受け入れるようになってきたのです。

百人百様のマネープランが生まれる

今月考えてみたいことは「100人に100通りの人生があり、100様のマネープランがある」ということです。

人それぞれの人生にはいくつかの「人生の大きな決断」が待っています。それは「25歳で結婚をする」であったり「35歳で結婚をする」であったり、「結婚をしない」という決断であったりします。

例えば、転退職に悩むとき、家を買うことを決めるとき、子どもが産まれて産院で抱きしめるとき、親が病気で倒れて病院へ向かっているとき、いろんな決断が待っています。

私は平凡な人生だと思う人にもひとりひとり違う決断がありますし、人とちょっと違う人生を歩んでいると自認している人はそうした決断が増えるかもしれません。

人生において決断を下す、ということは同時に、何らかのマネープランの選択をするということでもあります。ほとんどの場合、人生の決断はお金の問題とセットであるからです。

結婚をすれば夫婦共同の家計管理の問題が生まれ、子どもが誕生すれば養育と教育費負担の問題が生まれます。転退職も年収の増減に直結しますし、学び直しも一時的には支出であり長期的には生涯収入の増を目指すテーマです。住宅購入も老後資金準備も、もちろんお金のテーマが人生を大きく左右します。

まずは、自分の人生を経済的に自立し支えていけるのであれば、私たちはどんな人生を選んでもいいのだ、というところを確認することからはじめてみましょう。

多様性のある社会は、多様性のあるマネープランが実現してくれるのです。

それは自分自身の人生と選択を周囲に受け入れてもらうことが大切であると同時に、他人の人生と選択を認め、受け入れていくことが重要だということになります。

◇  ◇  ◇

FP山崎のLife is MONEY」は毎週月曜日に掲載します。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)、「日本版FIRE超入門」(ディスカバー21)など。http://financialwisdom.jp

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