資産を15倍に増やした策士 現金増やして買い時を待つ
スゴ腕の個人投資家が伝授 新年度相場の攻略法(2)

「ロシアのウクライナ侵攻や米連邦準備理事会(FRB)の動向を伝える日々のニュースは、株式相場のボラティリティー(変動率)を高める要因になるだけ。相場の方向性を決定づけるものではない」
こう喝破するのは、2018年にIT(情報技術)系の上場企業を早期退職して専業投資家に転身したすぽさん(ハンドルネーム)だ。読者を巻き込んで個別銘柄を分析するブログを運営して、個人投資家の間で人気を博している。
米国株はバブル終盤と判定
すぽさんは11年に予想PER(株価収益率)10倍前後のバリュー(割安)株から、年率20%以上で業績を拡大するグロース(成長)株への投資にシフト。運用資産を5年余りで10倍に増やした。

18年10~12月に相場全体が断続的に急落した際には大きく減らしたが、20年に起きたコロナショックの暴落は回避した。同年1月下旬に米ダウ工業株30種平均などの指数が急落したのを見て、「バブル崩壊が始まった」と判断。グロース株を中心に保有株を売却し、打撃を受けるのを免れた。運用資産は、昨年3月末に11年時点の15倍超まで拡大した。
昨年後半には、米国株がコロナショック後に発生したバブルの終盤に入ったと判断。12月に一旦、保有株を全て売却してポジション(持ち高)をゼロにした。今年2月下旬時点では、運用資産の半分を中小型のグロース株に振り向け、半分は待機資金にしている。
「以前は予想PERが50倍以上と割高なため、食指が動かなかったグロース株の価格が旧東証マザーズの相場全体の下落で調整し、予想PERが20~30倍台に下がってきている。そうした割安になったグロース株を仕込んでいく。相場が一段と下がって損失を被る恐れもあるが、それを覚悟の上でグロース株で勝負する」(すぽさん)
2月下旬時点では、既にグロース株を3銘柄保有していた。モビルスは、昨年9月に旧マザーズに上場した新興企業だ。企業や自治体にAI(人工知能)を活用した電話自動応答システムを提供している。ウェブサイトやSNSアプリなどで寄せられた質問に自動で応答するチャットボットで高い国内シェアを持つ。
在宅訪問薬局を運営するHYUGA PRIMARY CARE(7133)も、昨年12月に旧マザーズに上場した新興企業だ。病気や要介護などで自分では調剤薬局に出向くことができない人の自宅や入居施設を訪問し、処方薬を届けて服薬指導まで行う。
すぽさんは、同社が在宅訪問薬局のノウハウを調剤薬局を営む他社にコンサルティングしている点に着目した。「在宅訪問薬局のリーディング企業になることを期待している」(すぽさん)
中古品の買い取りサービスを展開するBuySell Technologiesは、コロナ禍で一時的に業績不振に陥り、売り込まれた点に注目した。「コロナ禍が収束に向かえば、成長軌道に戻り、株価も反発すると見込んだ」と説明する。
強弱両方の相場展開を想定
米国株のバブルは一気に破裂せず、空気が少しずつ漏れ出す形でしぼんでいる状態――。これがすぽさんの見立てだ。「このまましぼみ続けるのがメインシナリオだが、何らかのきっかけで反転して上昇相場に戻る可能性もある」と指摘して、次のように続ける。
「米国株が再び大きく調整し、それに連動して日本株相場も大きく下がれば、待機資金を投入して割安になった成長株を仕込む。逆に上昇相場になれば、日米の相場が上値を追う展開になったのを見計らって、成長株を買い増す」
理想は、5年で利益が2倍になる可能性のある銘柄を予想PER20倍くらいの価格で買うこと。その理想に合致する銘柄が出てくる可能性があるので、あくまでグロース株に的を絞る。
「時価総額の大きいバリュー株の方がボラティリティーの高い相場でも値動きがマイルドで、調整時の打撃を軽減する効果が期待できることは承知している。だが、大型バリュー株にはシフトしない」
すぽさんはこう話し、医師向けのコミュニティーサイトを運営するメドピアなど、有望視している銘柄の動向に目を光らせている。

(中野目純一)
[日経マネー2022年5月号の記事を再構成]
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