保険の保障対象にならない? がんの定義に注意
生保損保業界ウオッチ(生命保険)

がん保険とは「がん」を保障する保険です。ところが医師に「あなたはがんです」と告げられても、がん保険の保障対象であるとは限りません。保険会社が約款で定めた「がんの定義」に該当しているとは限らないからです。
がん保険には「悪性新生物をがんと定義し、上皮内新生物と保障内容を区別するもの(A)」「悪性新生物も上皮内新生物もがんと定義して保障内容も同じもの(B)」「いずれもがんと定義しつつ、保障内容が異なるもの(C)」があります。上皮内新生物とは腫瘍細胞が粘膜の上部層である上皮内にとどまり浸潤していない状態で、転移の可能性もなく切除すれば再発の心配もありません。
医師から「がん」と告げられた契約者が悪性だと思って給付金を請求したところ、実際は上皮内新生物であったため給付対象外になるなど、保険会社とトラブルになるケースがあります。加入に際しては、がんの定義とその保障内容を確認することが欠かせません。
給付判断の根拠
最新の各社のがん保険約款では、ICD-10(2013年版)とICD-O-3中の第5桁目の性状コードを組み合わせて給付の判断を行うのが一般的です。ICDとは、がんに限らず、病名ごとにコードを振ったもので、「胃の悪性新生物C16」など、部位ごとに分類番号が列挙されています。ICD-Oは腫瘍部分を詳細に分類したもので、第5桁目に良性か悪性かの区別、新生物の型や形態を示しています。ICDもICD-Oも、後ろに続く数字は版を表しており、版が新しくなるたびに最新の医学的知見を反映して変更や追加が行われます。
しかし新たな分類等が施行された場合の扱いが、約款により異なることに注意が必要です(下表参照)。ICD-Oは現在3.1版から3.2版に移行しており、ICDも11版の導入に向けて作業中です。新基準か旧基準かによって給付の可否が変わることも考えられます。古いがん保険だとICD-9などの基準を採用しているものもあり、念のため確認しておくとよいでしょう。

今回は「がんの定義」に着目しましたが、入院給付金においても合併症や手術後のリハビリなどを給付対象とするかどうかでトラブルがあります。がん治療は個別性が高いだけに悩ましい問題です。
特約や補償範囲などが商品によって異なる保険の比較はなかなか大変。この連載では保険に詳しいファイナンシャルプランナーが商品選びの勘どころを紹介します。
大手生命保険会社勤務の後、ファイナンシャルプランナーとして独立。生活設計塾クルー取締役を務める。『医療保険はすぐやめなさい』(ダイヤモンド社)など著書多数。一般社団法人FP&コミュニティ・カフェ代表。
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