証券大手4社減益・赤字、4~9月 残高重視で米欧勢に遅れ

大手証券5社の2022年4~9月期決算が2日、出そろった。日米の株式相場の低迷を受けて個人部門の収益が悪化し、野村ホールディングス(HD)など3社は最終減益、SMBC日興証券は最終赤字に転落した。法人も株式関連の引き受けが減った。預かり資産残高を増やして市況に左右されにくい収益体質への転換を目指すが、米欧勢に比べて遅れも目立つ。
野村HDが2日発表した4~9月期連結決算(米国会計基準)は、純利益が前年同期比64%減だった。個人向け営業では投資信託や外国株式の販売が振るわなかった。企業が株式発行を見合わせる流れが続き、投資銀行部門も勢いを欠いた。北村巧・財務統括責任者は「不透明な市場環境で厳しい決算だった」と振り返った。
三菱UFJ証券ホールディングスは、前年同期に米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントとみられる取引で損失を計上した反動で増益だった。この影響を除いた実質ベースでは減収減益だった。
SMBC日興証券は相場操縦事件の影響で、株式の売買注文や債券の引き受けを取りこぼすケースが出た。相場操縦事件によって売上高にあたる純営業収益が約250億円下振れしたと試算する。個人向け営業、法人、市場の3部門がそろって営業赤字になった。

4~9月期は米欧の金利が上昇し、外国為替市場では急速な円安・ドル高が進んだ。大和証券グループ本社は「金利や為替の動きに対してヘッジ取引がうまくいかず損失が膨らんだ」という。「円安でドル建ての日本株の運用成果が悪化している。外国人投資家の運用ニーズが落ちている」(三菱UFJ証券HD)といった声もあった。
景気後退懸念も強まり、世界の市場環境は不安定なままだ。業績低迷が長期化しかねない状況で、証券各社は株式の短期売買などに頼らない収益モデルへの転換を目指す。
戦略商品として、各社はファンドラップに注力する。顧客から預かった資金を複数の投資信託を組み合わせて運用し、資産残高に応じて手数料収入が入る。
日本投資顧問業協会によると、ラップサービス全体の契約残高は6月末時点で13.9兆円。残高を伸ばしてはいるが、1200兆円を超える米国とは大きな差がある。
預かり資産残高を重視する経営は米欧勢が先行する。米モルガン・スタンレーの場合、富裕層向けのウェルス・マネジメント部門で残高に応じた手数料体系をとる資産は1.6兆ドル(約230兆円)ある。野村HDのストック資産(18兆円)の10倍超だ。米ゴールドマン・サックスは残高ベースの手数料収入の拡大に向けて、日本でも個人向けに非上場の不動産投資信託(REIT)などの販売を計画する。
市場の評価も差は大きい。モルガン・スタンレーの時価総額は約21兆円、PBR(株価純資産倍率)は1.4倍だ。野村HDの時価総額は1.5兆円、大和は0.9兆円にとどまり、PBRは0.4~0.6倍と企業の解散価値とされる1倍を大きく下回る。残高ベースの安定収益をどう確保していくか、戦略の巧拙とスピード感が今後の企業価値を左右しそうだ。(湯浅兼輔)