経常収支と為替 日本の黒字額縮小で円安・ドル高に
キソから!投資アカデミー 為替④
為替相場はその時々の様々な要因で変動します。国境を越えた資金のやり取りを示す経常収支も決定要因の一つです。
経常収支は「貿易・サービス収支」「第1次所得収支」「第2次所得収支」に分かれます。「第1次所得収支」は海外子会社や海外企業への投資に関する「直接投資収益」や、株式や債券の購入に伴う「証券投資収益」などをさします。日本経済は経常黒字のほとんどを第1次所得収支で稼ぐ構造が定着しています。貿易・サービス収支は東日本大震災後のエネルギー輸入の拡大などで赤字の年が増えています。第2次所得収支は官民の無償資金協力などですが、規模は限定的です。
投資家心理を含め為替相場に大きな影響を与えているのは、日々の経済活動に伴う「貿易・サービス収支」が中心です。では、どのような経路をたどって影響を与えるのでしょうか。個別企業の商取引で考えると仕組みが分かりやすくなります。

例えば、ある日本企業が自動車を輸出して米国で販売したとします。この企業は現地通貨のドルで受け取った代金を円に替えるため、ドル売り・円買いに動きます。外為市場では円高要因となります。逆に日本で輸入品を販売する企業は、米国で商品を仕入れるためのドルを確保しようと円売り・ドル買いに動きます。つまり円安要因になります。
貿易・サービス収支はこうした個々の企業の商行為を積み上げたものです。輸出額が輸入額より多く黒字になれば、差し引きで円高要因が円安要因を上回ることになります。「貿易・サービス収支」が黒字であれば、円を必要とする企業が多いという需給バランスを示す重要な指標になります。
また、経常黒字自体が国の経済状態が良好であることを示すバロメーターにもなります。経済力が強い国の通貨が買われるという原則に立てば、経常黒字ならこの視点からも円高要因になります。
もっとも経常収支が改善すればその国の通貨は上昇し、悪化すれば下落という単純な図式がいつも当てはまるとは限りません。経常赤字の拡大は旺盛な国内需要を映している場合があり、海外から投資を呼び込んでいれば通貨高要因となるからです。
国際間の資本の移動が活発になっているため、経常収支が為替相場に与える影響は相対的に小さくなっているという指摘もあります。それでも短期筋を含めた投資家の売買行動のきっかけとなるケースは多く、市場の注目度はなお高いといえます。