為替介入、日銀が恐るべきは投機よりパウエル氏
9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後、外国為替市場でドル高が加速している。ドルの総合的な強さを示すドルインデックスは連日高値更新で114台を突破した。もちろん、英ポンド危機をはやす投機マネーがポンド売りに集中したことも要因の一つだ。
ポンド急落なかりせば、円安も1ドル=146円の(海外投機筋がみる)「新黒田ライン」の攻防になるところであったろう。それが144円台で一服しているゆえ、日銀の視点に立てば「風が吹けばおけ屋がもうかる」のごとき展開か。
とはいえ、今週に入ってのドル円相場には、相次ぐ米連邦準備理事会(FRB)高官発言も効いている。おおむね、「パウエル流利上げ強化路線」を追認する内容なのでドル高要因となり、日銀にとっては投機筋より恐るべき円安材料となった感がある。
先陣を切ったのは、初の黒人女性の地区連銀総裁として注目されているボストン連銀のコリンズ総裁。新任ながらFOMCでの持ち回りの投票権を今年は持つ。「インフレ退治のための利上げが失業率上昇を招いても、リセッション(景気後退)にはならない」と述べ、就任後初の公的発言を無難に切り抜けていた。その後、クリーブランド連銀のメスター総裁、アトランタのボスティック連銀総裁、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁と、パウエル路線肯定論が相次いだ。
そもそも、今回FOMC後に発表された委員らの政策金利の見通し、ドット・チャートでは、年末の見通し4.375%が9人、4.125%が8人と、19人の委員の見解が狭いレンジに集中している。クラリダ前FRB副議長は、これほどに「ほぼ全員一致」は珍しいと感想を述べている。パウエル議長の丁寧な内部根回しが透ける。
対して、市場の大勢は8%超えの消費者物価指数(CPI)上昇率を2%台で安定的に推移する状況まで引き下げるには、4%程度の利上げでは不十分との見立てに傾いている。振り返ってみれば、2021年12月のドット・チャートでは、22年末の政策金利予想が1%以下であった。1.125%予測の2人が「超タカ派」と言われたものだ。
それゆえ、次回(22年12月)のドット・チャートでは、5%台が主流になるとの市場見解に説得力がある。筆者は、6%以上になっても驚かない。仮にそうなれば、円相場は新黒田ラインも突破され、日銀対ヘッジファンドのせめぎ合いが、150円台攻防となる可能性が強い。そこで結果的にはFRB高官発言がさらなる投機的ドル買いを誘発するシナリオが十分に考えられるのだ。
なお、FOMC内には少数派ながら異論もある。シカゴ地区連銀のエバンス総裁は27日に「私は急速な利上げにナーバスになっている」と語って市場では注目された。0.75%という大幅利上げを連続3回した場合の効果も判定できないのに、さらに11月も0.75%利上げとの予測が市場には流れることにくぎを刺した発言である。早晩、利上げを1回休むべき(ポーズボタンを押すべき)で、政策効果の点検が必要との見解は、FRB高官発言のなかにもみられることだ。
その場合は、投機筋の手じまいの円買いが集中して10円近い円高局面になる可能性がある。筆者がもし為替介入担当者の立場であれば、そこで円買いステルス(覆面)介入を強化して一気に円安の流れを断つと考えるであろう。投機筋も日銀には逆らえてもFRBには逆らえない。

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