5月FOMCこそ利上げ見送りか
パウエル氏率いる米連邦準備理事会(FRB)は切羽詰まっている。これまでの史上最速利上げの効果が、金融政策のラグで、いまだ点検できていない。それでも、パウエルFRB議長は、インフレが浸潤して新常態化するリスクを最も恐れ、今回も、金融不安という赤信号が点灯するなかで0.25%利上げに踏み切った。暗闇の手探り状態といわれる。なお、ウォール街では、ダメ押し(insurance)利上げとも呼ばれる。
米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の将来の金利予測を見ると、2023年末の政策金利水準は、22年12月時点で5.625%が2人、5.375%が5人、5.125%が10人、4.875%が2人と、かなり収れんしていた。
今回も、5.875%が1人、5.625%が3人、5.375%が3人、 5.125%が10人、 4.875%が1人、と収れん傾向だが、やや高めに振れている。
なお、12月には副議長として参加していたブレイナード氏が、国家経済会議(NEC)委員長としてホワイトハウスに転出したため、参加者総数が、19人から18人に減っている。ハト派の主導格だっただけに、次期副議長職指名が注目されている。
総じて、昨年末から、参加者の入れ替えにより新顔も目立つ。黒人女性初の起用で注目されたクックFRB理事。そしてジェファーソンFRB理事、グールズビー・シカゴ連銀総裁、ローガン・ダラス連銀総裁、バー副議長(金融監督担当)の5人である。米国のFEDウオッチャーたちも、この「フレッシュマン」たちが、ハト派なのかタカ派なのか、まだ読み切れていない。パウエル議長は「ミスター・コンセンサス」と呼ばれるほど根回しの人だ。議会公聴会でも、質問側の議員たちから「先日は、わざわざ、お越しになり、丁寧に説明していただき、ありがとうございました」との謝辞が目立った。
かと思えば、今回の記者会見では、米シリコンバレーバンク(SVB)破綻をきっかけに銀行規制強化について問われると、それは、バー副議長が担当している、と「回答回避」の口実に使っていた感もあった。
このような内部環境で、市場では、早くも5月利上げについて議論が始まった。金融不安が沈静化すれば、「最後の利上げ」として、0.25%幅で実施されそうだ。問題は、年後半。市場は、利下げに転じると見ている。利上げの最終的な到達点(ターミナルレート)を4%前半と予想しているので、年内に1%程度の利下げを見込む。
対して、FOMC側は、5月に0.25%で利上げ打ち止めとなれば、年後半は、政策金利を5%水準の高値で維持することになる。「高く、長く」(higher、longer)の原則は生きている。とはいえ、半年も、経済環境が、政策金利を動かさずに済むほど、静観を許すとも思えない。
パウエル氏も、物価の安定を重視すれば利上げ、市場の安定を重視すれば利下げ、という綱渡りを強いられよう。
このように考えてくると、3月FOMCは、2023年相場のいまだ序章かもしれない。最後に勝つのは市場予測かFRB予測か。
昨年は3月にゼロ金利解除、量的緩和(QE)停止が決まり、その後、歴史的利上げサイクルに突入した。
量的引き締め(QT)については、FRBの資産規模が増えていることが指摘されたが、これは、QEへの転換ではなく、米銀に対する緊急融資の影響である。前例として想起されるのは欧州中央銀行(ECB)が銀行に低金利で資金を貸し出す支援策「TLTRO」という長期資金供給措置を導入したときに、ECB資産規模を示すカーブが大きく上に振れたが、その後、元に戻った。
とはいえ、金融不安が高まれば、月額100億ドルのQT継続は困難との見方は根強い。
キャプテン・パウエルの海図なき航海ナビゲーションは続く。

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