パウエル議長を信じたくても信じ切れない市場
最近の米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の語録でウォール街の話題になっている単語が「ソフティッシュランディング(softish landing)」だ。機体が揺れるソフトランディング(軟着陸)という意味が込められている。
17日の米経済紙主催イベントでは「失業率の多少の上昇」を金融引き締めが誘発する「痛み」の事例として挙げていた。米労働市場は強いので、その程度の揺れなら軟着陸との判断のようだ。求人件数が1100万人を超える人手不足を、労働市場逼迫の理由として挙げている。
着陸時の金利水準に関しては、中立金利を上回る可能性も示唆した。
市場は既に年内の政策金利について3%近くへの上昇を覚悟している。
すでに3月と5月で計0.75%の利上げを実施済み。6月、7月、9月と連続で0.5%の利上げ、11月、12月は0.25%の上げとの読みだ。なお、5月、6月、7月の連続0.5%利上げ後に政策効果を点検のうえで、必要とあれば9月の利上げを0.75%とする可能性が高まるとのシナリオもある。そこで、年末の金利予測レンジは2.75~3%となる。
かなりの急速利上げゆえ、やはり、景気後退を誘発するシナリオが気になるところだ。
17日には4月の小売売上高が発表され、前月比0.9%増(季節調節済み)と堅調であった。とはいえ、消費者のバランスシートにおける累積債務も懸念される。これも、着陸時の大揺れ要因となりかねない。
利上げ効果の点検も難しい。パウエル氏は金融政策を刃物に例え「切れは鈍い」と認め、「精密な外科手術のようにはいかない」と語っている。それでも急速利上げという荒療治を「ためらわない」と強い意志を表明した。
なお、0.75%利上げの可能性については、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見で「議論のテーブル上にはない」としたが、クリーブランド連銀のメスター総裁(タカ派)は日本経済新聞のインタビューで、0.75%利上げの可能性を排除していない。ところが、そもそも0.75%の利上げ案を言い出した張本人のセントルイス連銀のブラード総裁(タカ派の先兵)は、17日の講演で「より強いドラマチックな動きはあるか」との問いに対して「0.75%利上げ」には言及しなかったことが注目された。FOMCメンバー内での亀裂も透ける。
さらに、イエレン米財務長官が4月18日に「物価(抑制)と雇用の両方を満たすことは不可能に近い組み合わせだ。手腕と幸運が必要だ」と述べたことがいまだに話題になっている。ブラード氏は5月17日に「リスクマネジメントの備えがあれば、運はついてくる」と話したが、「私は運頼みにはしない」と語っていた。
かくして、FRB高官発言に一喜一憂して、ボラティリティーが激しくなる傾向が続いている。
視界不良の4~6月期は、「無理にポジションは持たず」との姿勢が市場では依然顕著である。

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