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中国バブル崩壊懸念発言の実相、ドル金利上昇リスクも

3月2日の記者会見での中国金融監督トップ郭樹清氏による「海外バブル崩壊懸念」発言は、今後の米中関係を見通すうえで、いまだに引き合いに出されることが多い事例だ。

筆者が講演した上海でのセミナー風景。米国の投資家交流サイト集団に似た現象も見られる

主な発言は以下の通りであった。

「海外の金融資産バブルがいつか崩壊するのではないかと非常に心配している」。(日米欧の新型コロナウイルス対応・積極財政金融政策について)「副作用がすでに少しずつ明らかになってきた」「不動産バブルの傾向はなお強い」と危機感を示した。

有事対応として正当化された未曽有の財政金融政策が経済の不確実性を高め、中国の金融システム不安に飛び火するリスクを懸念する警鐘といえよう。

郭氏の管轄内では、銀行の巨額不良債権が問題視される。特に、コロナ禍で倒産が相次ぐ中小企業の救済のため、元利払いの繰り延べを認めた。しかしコロナからの経済回復とともに、救済という名の点滴は徐々に外される。その結果、特に中小銀行の新たな不良債権が急増中だ。苦肉の策として、中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)と中国人民銀行(中央銀行)は「株式転換型永久債」という新たな債券の発行を認めた。発行する銀行は強制的に債券を減額して、その分を株式に転換できる仕組みだ。当然、利回りは高めになるが、自己資本に算入できる。とはいえ、買い手が見込めるのか不透明だ。

過去には、巨額の実質赤字を抱えた地方政府が発行した地方債に買い手がつかず、結局、大手商業銀行が引き受けさせられた事例がある。筆者がアドバイザリーを務めた銀行でも、この地方債を「人民銀行適格担保」という甘味剤つきで渋々買い受けたことがあった。

なお、冒頭の発言者が郭樹清氏ということも注目点だ。金融保険業界では「泣く子も黙る」といわれる銀保監会のトップである。しかも、中国人民銀行の副総裁だが実質的にはナンバーワンとみられている。同氏は中央委員会委員で、さらに中国人民銀行内の共産党委員会トップ(書記)の座にある。対して易綱総裁は人民銀行内では共産党委員会副書記で易綱総裁のほうが序列が低いのだ。

この人事は、銀保監会と中国人民銀行の金融組と中国財務省の内部対立を意識した動きとみられる。今回のようなコロナ対応でばらまかれた過剰流動性の圧縮過程では、民間企業の資金繰りが悪化して倒産が急増する。そこで締めすぎ批判の矢面に立たされる金融組は、財政緊縮に責任転嫁することもある。ここでの舞台裏の力関係ではトップの党内序列がものをいう。

いっぽうバブル退治という難題の表舞台では中国人民銀行の易総裁が前面に立たねばならない。中国国内のバブル破綻を阻止するためには、金融政策の微妙なかじ取りが必要だ。一歩間違えたときスケープゴートにされ、詰め腹を切らされるのは易総裁となる可能性もある。

すでに中国国内では不動産大手の苦境も顕在化している。華夏幸福基業が2月、資金不足により一部融資を延滞していることが判明した。同社はドル建て社債も数十億ドル規模で発行しており、米金利急騰とドル高が重荷になっていた。格付け会社フィッチ・レーティングスは同社発行債券を「限定的デフォルト」へ格下げした。足元ではドル金利も小康状態でドル安に転じているが、中期的に現水準でドル金利上昇が止まるとは思えない。

同社は、地方政府がインフラ投資のために設立した「地方融資平台」のような存在で、テーマパーク建設のため創立された。その後、遊興施設に隣接する地域で一般住宅建設にも進出。その結果、累積債務が膨張した。それでも昨年までは新発ドル建て社債が順調に消化されていたのだが、今年に入り情勢が急変したのだ。

とはいえ、グローバルな視点では中国経済がコロナ後にいち早く立ち直りを見せている。中等先進国を目指す長期目標も提示された。「成長の速さより発展の質」を重視して、外向きから内向きの姿勢への移行が明示されている。国内の「大循環」と「国際循環」の「双循環」がキーワードである。海外から技術そしてマネーを呼び込むためには、国内市場の構造改革も不可欠だ。特に国債、社債、地方債の売買を活性化させるため債券市場の整備は急務といえる。ただし、海外マネー流入が加速して暴れても困る。危うい綱渡りである。

さらに、一定のシャドーバンク(影の銀行)依存からの脱却の過程では、中国人投資家が購入した金融商品の「債務不履行」の痛みを実感することも避けて通れない。最後は国が救済してくれる、というモラルハザードにはまった中国人個人投資家には受難の時期となろう。

マクロ的な視点では、バイデン政権下での米中経済関係を両国が模索している段階だ。米中の金融システム不安は米中共倒れのリスクを孕(はら)むので、両国とも相手国のバブル破綻は望むところではない。深読みすれば、郭樹清発言は、中国側から様子見の先制ジャブ攻撃とも解釈できよう。

市場目線ではドル金利と中国経済の関連が要経過観察だ。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuotoshima@nifty.com
  • 出版 : 日経BP
  • 価格 : 1,045円(税込み)

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