人民元高が誘発 仮想通貨と国際商品の規制強化
中国が人民元高抑制のため、切り札を発表した。膨張する外貨預金に対して、民間銀行が中国人民銀行に預ける外貨準備率を5%から7%に高める措置である。市場では「リーマン・ショック以来」と言われるほど強い対応策だ。

連休明けのニューヨーク(NY)市場でも話題になった。人民元高傾向のなかで、ゴールドマン・サックスやブラックロックなど大手米金融機関が相次いで、中国国内の主として個人運用部門への参入加速に動いている矢先のことだからだ。中国政権の視点でも外資参入は米中経済協議のなかで受け入れに前向きな項目でもある。国内の「大循環」と「国際循環」の「双循環」を掲げる国家戦略のなかで、海外マネー流入促進は欠かせない。
とはいえ、人民元高による資本流入には世界的な過剰流動性が生んだ投機マネーも呼び込む「副作用」もある。
そこで中国当局はまず暗号資産(仮想通貨)のマイニング(採掘)から取引までを「根絶やし」にする規制強化に動いた。さらに、国内商品先物取引所で鉄鉱石などの国際商品を狙う投機筋に対して取引証拠金引き上げなど強い抑制措置を実施した。
しかし株式市場では、中国・香港間ストックコネクト(相互乗り入れ)経由での海外投機マネー流入が加速している。不動産バブルを助長するリスクもはらむ。
人民元高の経済効果としては、製造業分野で輸入部品・素材の国内価格を下げる一方で、輸出部門では国際競争力をそぐ。後者はコロナ後の経済回復を阻害する重大な要因となるので、政策優先順位は高い。さらに前者は生産者物価の消費者物価への転嫁を抑制するので、インフレ防止効果がある。「庶民レベルでの物価上昇」は社会不安を醸成し中国共産党が最も嫌うところなので、ここも政治的圧力がかかりやすい。
かくして「適正水準」を模索する人民銀行は連日、危険な綱渡りを強いられている。それゆえ、今回の人民元高抑制措置に対して人民銀行関係者から「異論」も発せられている。
同行内の序列を見ても、易綱総裁に対して郭樹清副総裁が共産党の意向を受け、にらみを利かせている。人民銀行内の共産党委員会では副総裁の序列のほうが高いのだ。しかも郭氏は中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)のトップという重責も兼務する実力者である。
さらに、習近平(シー・ジンピン)氏の立場では国際通貨基金(IMF)に対して人民元を特別引き出し権(SDR)の第5の国際通貨として認めてもらった経緯がある。あからさまな人民元介入などは極力控え、市場では努めて「お行儀よく」振る舞わねばならない。
なお、人民元高・ドル安は、中国が保有する1兆ドルほどの米国債を売って減らすきっかけにもなりかねない。主たる買い手は米連邦準備理事会(FRB)、日本そして中国頼みの米国債市場ゆえ、ドル金利上昇要因になる可能性が無視できない。
人民元安が世界株安を誘発するような危機的状況は当面考えられないが、政治・経済要因に左右される人民元相場は、常に市場のサプライズ要因と化す可能性を秘めるので目が離せない。

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