FRB闇討ち懸念、市場は全面降伏
米ウォール街で今週話題となり、多くの欧米メディアが断片的に引用したのが米バンク・オブ・アメリカ(BOA)の最新機関投資家サーベイだ。株への運用配分がリーマン・ショック以来最低の水準との一節が特に見出しとなった。
市場に悲観的なリポートはあまた出回るが、「恐ろしいほどの(dire)リスク許容度の低さ」「市場は全面降伏(capitulation)」など独自の表現がおどろおどろしい。さらに、このリポートはリバースインジケーター(反面教師)の異名を持つ。今回も「ブルベア指数でベアがマックス(最大)」とまで書かれると、市場は「いよいよ底入れ近しか」と解釈するのだ。リポート発行側も、それを意識してか、「私はとても弱気だから強気だ=I am so bearish, I'm bullish」と開き直ったかのようなタイトルをつけた。
それほどに悲観的になる理由として、同調査では、「執拗なインフレ」が33%、「世界的不況」が24%、「中央銀行のタカ派傾向」が17%、「流動性不足などシステミックな信用リスク」が10%を挙げている。米国のリポートゆえ、ウクライナ関連は7%、コロナ再発懸念は4%と相対的に低い。
いま、最も混み合っているトレードとしては、米ドル買いが41%、コモディティー買いが23%、ESG関連資産が12%、現金が6%、米国債売りが6%とされる。これらをリバースインジケーターと見れば、ドル高、商品高は、そろそろ一巡ということになる。
そもそも、米国市場のファンドマネジャーたちをかくも悲観的にさせている背景には、米連邦準備理事会(FRB)が今後さらに年内1.5%以上は利上げするという見解と「市場ムードが(インフレと景気後退が同時進行する)スタグフレーション的」という理由が挙げられている。
調査期間は7月8日から15日。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、それまでの「0.75%利上げは議論のテーブルにあがっていない」との見解が、あっさり、ちゃぶ台返しされたことのショックが明らかに尾を引いている。市場のスローガンも「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」に、急転換した。
筆者の実感としては、今のニューヨーク(NY)市場は、「悲観」というより「無気力」なムードが目立つ。ヘッジファンド特有の「落ちるナイフもあえてつかむアニマルスピリッツ」が感じられない。去勢された市場のごとき様相だ。ダウ工業株30種平均が500ドル以上急騰しても、急落しても、取引量は増えず、徹底した傍観の姿勢だ。海千山千のファンドマネジャーたちとビデオ会議「Zoom(ズーム)」で意見を交わしていても、言い訳がましい説明や自嘲気味のつぶやきが印象として残る。筆者が円安に話題を向けても「安い日本にリベンジ旅行したいと家族に迫られている」などとかわされてしまう。
顧客としての個人投資家たちも、運用を任せたプロたちが、あえて現金ポジションを増やしても、特に声を荒らげて批判するわけでもなく、不満だが渋々現状を受け入れる姿勢が多い。
それゆえ、プロも焦らず、じっくり7月のFOMCを待ち受ける。前回の苦い経験から、全ては箱を開けてみないと分からないと割り切っている。さらに金融政策効果の発揮にはタイムラグがあるので、7月FOMCでも「8~9月のデータ次第」とかわされる可能性がある。欧州中央銀行(ECB)と日銀の動きも重要視されるので、8月25~27日に開催されるジャクソンホールでの中央銀行フォーラムは例年以上に注目される。
かくして未曽有の待機資金がマグマのごとく沈殿しており、ひとたび、市場の視界不良が解消されれば、中間選挙も視野に、秋の大相場になりそうな予感が漂っている。

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