1ドル=136円、苦境ヘッジファンドを救ったミスタークロダ
2022年5月のヘッジファンドのパフォーマンスは惨憺(さんたん)たる状況だったことを欧米外電や経済紙が相次いで報じている。やはり米ハイテク株暴落が効いた。
具体名としては、まず大手のタイガー・グローバルの名前が挙がる。リターンが5月にはマイナス14%、年初からはマイナス52%まで落ち込んだ。
カリスマ富豪投資家のアックマン氏も、5月マイナス9.5%、年初からはマイナス18.2%に沈んだ。
その他の事例も、枚挙にいとまがない。
かくしてヘッジファンド受難の5月となったが、その渦中で貴重な成果を得たのが円売りトレードであった。
多くのヘッジファンドが殺到した結果、世界の外為市場で、ドル円の4~6月期の通貨ペア売買実績が、これまで断トツであったドル・ユーロに肉薄した可能性が指摘されている。
3年ごとに発表される国際決済銀行(BIS)外為サーベイの通貨ペア別売買実績(日次)によれば、2019年には1位のドル・ユーロが4163億ドル、2位がドル円の2599億ドルであった。それが今年発表の数字では、1位と2位の差がかなり縮小している可能性がある。米国メディアの外為関連報道でも、本日の為替レート発表順で、ドル円が最初にくる事例が最近は増えている。
国際通貨投機筋の視点では、いわゆる安全資産三兄弟(米国債、円、金)から円が脱落した。いまや海外にある資金を自国内に戻す、有事のレパトリエーションで円が買われる状況は考えにくい。日銀金融政策もポスト・クロダをにらんでいるが、誰が後釜になろうと、大幅な政策変更は無理筋と断じている。「我々が円売りでもうけられたのもミスタークロダのおかげ」との謝意も寄せられている。
金融当局の介入も、いまや民間市場は高速度取引が席巻(せっけん)しており、世界の主流に逆らってドル売りに動いても、介入の実効性は極めて疑わしい。実務面では未体験ゾーンの高速度介入に対応できるのか、定かではない。為替ブローカー経由でスイープ(市場に出ている注文を全売り・全買い)という旧来型ではもはや追いつかぬ。
さらに、日本株のみならず日本円の相場も外国人主導の展開が目立つ。昨日も東京市場が引けてから、1ドル=136円台に突入した。
なお、いま、ニューヨーク(NY)市場で投機的に円を売っている人たちの多くは、日本に関する知見が極めて薄い。単に円安のモメンタム(勢い)に乗って参加してくる新規参入者たちは、これからも増えそうだ。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策動向は読み切れないが、日銀金融政策は誰が見ても読めるからだ。いっぽうで、1ドル=110円台から円を売っては買い戻しの連戦連勝でここまで来たファンドは、加速度的に大胆に相場をはってくる。130円台後半に突入しても、年末まで150円を見据えている。そこまでいかなくても、十分にもうけさせてもらった、との「謝意」があるからだ。150円にいく可能性が多少なりともあれば、追求してゆく姿勢である。「新規の円買いには恐怖心を感じる」と本音を聞かされたとき、筆者は「これは怖い」と感じた。

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